すでに本メルマガでも何度か触れましたが、「無形」というのは「兵法」の全13章の中の第6章に当たる「虚実篇」のなかで戦略の理想形として描かれている概念です。
もちろん日本語訳では色々な解釈がされておりますが、戦略学の解釈としては「相手に勝ちパターンを察知されない状態」のことを「無形」としております。これはつまり、「相手に自分の意図を探られてないことが理想的である」ということなのです。
拡大解釈ととられる危険性はありますが、この「無形」を中国の戦略思想の究極の理想であると仮定して考えてみると、現在の北京側のやりかたについての1つのヒントが得られることになります。
というのも、「無形」が理想であれば、たとえば彼らが南シナ海をはじめとする対外政策での最大の狙いは「相手に意図を知られないこと」、もしくは「相手を混乱させること」にあることがわかるからです。
「いや、実際に彼ら自身も何やっているかわからないんじゃないですか?」というツッコミにも一理あるでしょう。
ただしここでのカギは、その戦略を行っている彼ら自身の中に「相手に意図を知られないことが理想である」と考え、対外的にも混乱したイメージを発信してもかまわないと考えているということ。
だからこそ、彼らはあえて秘密主義に徹し、人民解放軍はミステリアスな存在であればあるほど良いという前提で行動をしかけてくるのです。
私はここで「孫子を学んだだけで中国の対外戦略のすべてがわかる」と言いたいわけではありません。しかし、我々日本人はこれまでもこれからも地政学的に中国と対峙してゆかざるを得ない境遇にあります。中国が戦略面で理想と考えている「孫子の兵法」を、彼らがどう理解して、如何に利用しているのか? 日本人は、そのことこそをまずは理解すべきなのではないでしょうか?
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『日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信』
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