プーチン、習近平とそっくり。トランプ氏が大統領に適していない理由

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アメリカ大統領選の共和党候補指名争いで独走の勢いを見せるトランプ氏。しかし、その過激な発言や具体性のない政治ビジョンには大統領としての適性を疑問視する声も少なくありません。これについて、静岡県立大学グローバル地域センター特任助教の西恭之さんは、メルマガ『NEWSを疑え!』で、トランプ氏に類似する外交政策で成功を収めている例を挙げながらも、それはあくまで「短期的」な目標達成でしかなく、民主国家の大統領に適していない、と一刀両断しています。

プーチン、習近平と似たトランプの外交姿勢

米大統領選の共和党予備選をリードしているドナルド・トランプ氏は、外交政策を詳しく語らない理由として、米大統領は「予測不可能」であること、外国に「本心を知られない」ことが重要だと主張している(ニューヨークタイムズ紙ウェブサイト3月26日、ワシントンポスト紙ウェブサイト3月21日)。

トランプ氏は、NATO(北大西洋条約機構)加盟国のエストニアにロシアが進攻した場合は、条約に従ってエストニアを守るが、日本の尖閣諸島を中国が占領した場合は、「信じがたい侵略、米国に対する信じがたい無礼」ではあるものの、「どうするかは言いたくない」と答えている米国の対応が予測不可能であるほうが中国の行動を抑止できるというのである。なお、オバマ大統領は2014年4月以後、日本の施政下にある尖閣諸島は、日米安全保障条約第5条に基づく共同防衛の対象であると明言している。

実は、トランプ氏のように予測不可能性を重視した外交と実力行使によって、短期的な目的を達成している国もある。プーチン大統領率いるロシアと、習近平国家主席率いる中国である。

シリアでは2015年夏、アサド政権が支配地域をIS(自称「イスラム国」)やアルカイダ系のヌスラ戦線に奪われる一方、トルコと米国は、トルコ国境付近のIS支配地域上空におけるアサド政権軍機の飛行を禁止することで合意していた。トルコも米国も、ロシア軍の介入を予測していたようにはみえない。

オバマ大統領は2015年10月、シリアへのロシアの介入は泥沼化すると警告した。しかし、ロシア軍は地上部隊を前線にほとんど投入することなく、アサド政権軍の支配地域を維持・回復し、有利な部分的停戦を発効させるという目的を果たしたうえに、これまた突然、「主力部隊」の撤退開始を発表した。その結果、ロシアは欧米諸国にとって、シリアから欧州への難民流出を抑制するために、協力が欠かせない国となった。

中国政府は、ロシアの介入は国際法上正当だとして支持している。中国のメディアが伝える評価は、ロシアが作戦目的を明確に認識し、決心と主導権をもって達成した結果、中東での影響力と欧米諸国に対する立場を強めたという評価が多い。

作戦目的の明確な認識、決心、主導権の掌握は、中国が2014年8月から15年6月にかけて南シナ海の岩礁を埋め立てた際に発揮した能力であり、中国人民解放軍が1999年に発令した『聯合戦役綱要』でも強調されている。中国の南シナ海埋め立てにおいて、主導権の掌握とは、埋め立てが一段落するまで中国共産党・政府・メディア・学者などが秘密を守り、国際社会に対する一種の奇襲に成功したことにほかならない。

このようにプーチン大統領と習近平指導部は、秘密に基づく予測不可能性によって、短期的には目的を達成している。

しかしながら、この行動様式は、領土拡大およびすでに始まっている戦争における兵力の投入には適しているが、戦争の抑止を通じて国際秩序を維持するためには適していない。また、同盟国との共同作戦にも適していない。さらに、政策を有権者に説明する責任のある民主国家の大統領・議員(候補)にも適していない。

それゆえ、米大統領選候補のトランプ氏が、予測不可能であることが重要だとして外交政策を語らないことは、米国の民主主義と国際的な法秩序を守るうえで問題となるのは避けられないのである。

(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)

image by: Action Sports Photography / Shutterstock.com

 

NEWSを疑え!』より一部抜粋

著者/小川和久
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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