現役弁護士が種明かし。役人の雑談に仕掛けられたズルい罠

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 数々のベストセラーや、テレビ番組への出演でもおなじみの弁護士・谷原誠さんが、ビジネスで役立つ論理的思考の習得法などを伝授する無料のメルマガ『弁護士谷原誠の【仕事の流儀】』。今回は、弁護士や税務署員といったお堅いイメージの職業ほど駆使しているという、「雑談」の意外な効果について語られています。

雑談の戦略!?

こんにちは。弁護士の谷原誠です。

雑談の大きな効果の一つは、「話を聞き出すこと」にあります。リラックスした気分で雑談するうち、相手の本音、要望、また必ずしも人に言おうと思っていなかった事実が見えてくることがあります。

その効果を仕事に役立てている職業として、税務署の調査官があります。

税務調査の際、調査官は会社や経営者の自宅を訪問し、調査対象者と雑談を行います。ここでは、経営の話はもちろん、趣味の話、家族の話等々、一見とりとめのない話が展開します。しかし、ここに一種の「ワナ」があります。

ご存知の通り、法人税などの税金は、売上から経費を差し引いた、利益(所得)に課されます。調査官の目的の一つは、会社の売上が漏れていないか、経費でないものが経費計上されていないか、などの事実を見つけ出すことです。

もちろん社長もそれは承知の上です。もし、雑談でいきなり「最近儲かってますか?」と聞かれれば、意図を見抜き、警戒するでしょう。そのため、調査官は、もっと身近な話題から入ります。

たとえば、自宅や社長室にゴルフバッグを発見すると「ゴルフをされるんですね。私も好きなんですよ」と話しかけ、定番の「スコアはいくつで回るんですか?」「どこのゴルフ場に行かれるんですか?」といった質問で、リラックスした雰囲気を作ります。

そして、ここから、このようなお話に展開します。

調査官「取引先の接待でもよくゴルフに行かれるんですか?大変ですね~」

社長「いやー、最近はゴルフをやる人も少なくなって、プライベートの友達ばかりですよ」

ここに重要な情報が隠れています。調査官は、会社の経費として計上されている出費の中に、プライベートで行ったゴルフの費用を含ませているのではないかと当たりをつけ、関連する領収書を探し、指摘するのです。

「あれ?先ほど、プライベートの友達とゴルフに行っているとおっしゃってましたが、ゴルフの領収証が経費の中に入っていますよ。おかしいですね!」

税務署の職員にとって、雑談は仕事の一部です。調査対象者が、重要な情報をつい話したくなってしまうような雑談の仕方を経験的に身に着けています

雑談から話を聞き出すことは、弁護士もよく行います。

法的トラブルを抱えた方から相談を受ける際は、事実関係を聞き出し、法律的な争点となる部分、依頼者にとって有利・不利になる事実を整理しなくてはなりません。しかし、法律的に論点となるポイントと、相談者が話したいことは往々にして異なるものです。

しかも、相談者は自分にとって都合の悪いことは、自分の代理人となる弁護士にも話したがらないもの。弁護士が知らない事実が後になってわかれば、せっかく組み立てた論理、戦略が崩れてしまいます。

そこで、案件に関連する周辺の話題を、気楽な雰囲気で自由に話してもらうと、法律的に重要なポイントが浮かび上がることがあります。気になる話が出てきたときに、核心を突く質問をすることで、詳細な事実関係を聞き出すことができます。

雑談は「感情」のやりとりであり、仕事は「理性」のやりとりです。この2つは峻別すべきものですが、理性的に論理を組み立てるためには、情報が必要です。それを引き出すために、雑談による感情のやりとりが役に立つことがあるのです。

『弁護士谷原誠の【仕事の流儀】』
人生で成功するには、論理的思考を身につけること、他人を説得できるようになることが必要です。テレビ朝日「報道ステーション」などテレビ解説でもお馴染みで、「するどい質問力」(10万部)、「弁護士が教える気弱なあなたの交渉術」(アマゾン1位獲得)の著者で現役弁護士の谷原誠が、論理的な思考、説得法、仕事術などをお届け致します。
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