お寿司の「1貫」って1個?2個? そもそもなぜ意味が揺れているのか?

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◆さて、江戸前の握り寿司が登場した頃の握り寿司は、今よりもずっと大きくかったそうな。1個が40gくらい。9種類のネタをそろえて、一人前の握り寿司ととしていた。そういえば、私が回転寿司に行っても、いつもだいたい9~10皿でおなかいっぱいになる。では、一人前の握り寿司の重さを計算してみよう。

40×9=360(g)

握り寿司一人前の重さと「銭差し百文」の重さは、ほぼ同じだったのだ。もちろん、いくら腕のいい寿司職人さんでも、少々の誤差はあると思うが……。

◆そこで、江戸っ子の職人さんがきっとこう言ったのだろう。
「ええい、これからは一人前の寿司セットのことを『百文揃い』って呼ぼう」
「いや、もっと景気よく『一貫揃い』と呼ぶことにしよう」
……というわけで、本当の一貫のおよそ10分の1の重さしかないのだが、一人前の握り寿司寿司のことを「一貫揃い」というようになった――という説があります(念のため)。これは、当時、強烈なコピーだったのだろう。かなりの「誇大広告」だが……。

◆握り寿司9個(約360g)で「1貫」の呼称が定着してくると、今度は握り寿司1個の分量を「1貫」と呼ぶようになった。この段階で、本来の重さのほぼ90倍の重さで呼んでいることになる。

◆ここで注意。握り寿司「1貫」とは個数ではなく、あくまでも質量だった。そのはずだった。ところが、握り寿司の個数「1個」の「1」と質量の「1貫」の「1」が一致してしまうと、「勘違い」が起こりやすくなる。
たとえば、「1斤(きん)の食パン」というときの「1斤」は、これも質量の単位。しかし、「1斤、2斤……」を「食パンの数え方」だと思っている人が多い。これと似た現象が、握り寿司に起こっているわけだ。

◆先にも書いたが、当時の握り寿司は1つおよそ40g。かなり大きめのサイズだ。食べやすくするために、やがてこれを2つに分けて出されるようになった。
「1貫」は質量の単位だから、2つに分けて出されても「1貫」は「1貫」。だから、この段階では、握り寿司は2つで「1貫」と呼ぶべき。

◆ところが、「1貫、2貫……」は握り寿司の「数え方」であるという考え方(勘違い?)が進むと、握り寿司1個を「1貫」という呼び方が登場する。
尺貫法が廃止されて久しいから、「貫」が質量の単位であることを知っている人がどんどん少なくなってきて、これから先は「握り寿司1個=1貫」の方がどんどん増えてくるだろう。もう止められないと思う。
「2個=1貫」なんだと主張したところで、これ自体、およそ90倍も重さを詐称しているわけだから、説得力がない。

◆握り寿司と「貫」との関係についてのお話は、これにて一貫落着。いや、一件落着。
もちろん、他の説もある。今回は、私がいちばん納得できる説を紹介している。

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