初のイスラム系市長誕生の英国に再発した「反ユダヤ主義」という誤算

okuyama0513
 

左派と称されるリベラル主義者たちが最も忌み嫌うのが「差別」だということはもはや常識ですが、イギリスの左派を代表する「労働党」内に、近頃「反ユダヤ主義」が急速に広がっているそうです。ロンドンでは先日、欧州主要都市として初めてのイスラム系市長が誕生したばかり。そんなイギリスで何が起こっているのでしょうか? 無料メルマガ『日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信』の著者で戦略学者の奥山真司さんが詳しく分析しています。

「寛容」を志したら「反ユダヤ主義」が…というパラドックス

おくやまです。パナマ文書の内容が一部公開されたり、オバマ大統領の広島訪問が決定したりと、国際的なニュースにおいては気になる話題が多いですが、今回はイギリスの左派のユダヤ問題について少し。

この話の元ネタは、ニューヨーク・タイムズ紙のコラム欄に掲載された意見記事なのですが、そこで紹介されていた意見が、戦略論的にもなかなか考えさせてくれる内容だったのでとりあげたというわけです。

The British Left’s ‘Jewish Problem’

すでにご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、つい先日行われたイギリスの市長選で、欧州の主要都市としては初の、イスラム系の市長サディク・カーン氏が誕生しました。

これは極めて画期的なことであり、国際的にも大きな話題になったところは記憶に新しいところですが、一般的には移民によって変わりつつあるイギリス社会の姿を象徴した出来事という見方や、イギリスという国のリベラル的な寛容性を示したものとして紹介されておりました。

ところがその一方で、ニューヨーク・タイムズの意見記事では、イギリスの左派を代表する労働党の中に、深刻な反ユダヤ主義anti-semitismが広がっている実態が紹介されております。

「え? 左派って人種差別には厳しいんじゃなかったっけ?」とお感じになった方もいらっしゃるかもしれませんが、それは実は正しい感覚です。というのも、伝統的に「左派」というのは、人権のような「普遍的価値」(universal value)や「平等主義」(egalitalianism)を目指す、リベラルで寛容さを主張する考えを持つ人々のことを指すわけです。

彼らの「」は、特権階級のもたらす不平等や不公平であり、だからこそ一般的な労働者の立場にたって、人種差別のないリベラルな社会を政策で実現していこうと考えるわけです。

イギリスの労働党というのは、まさにこのような思想に立って活動をしている二大政党の一つであるわけですが、ニューヨーク・タイムズ紙のコラムで紹介されていたのは、この労働党の実力者たちの間に最近「反ユダヤ主義的な失言があったということ。

具体的には、イングランド北部のブラッドフォード地区選出のナシーム・シャー労働党所属議員の「イスラエルを国ごとアメリカに移してしまえ」という失言や、ケン・リヴィングストン前ロンドン市長が「ヒトラーは30年代までユダヤ人国家建設を目指すシオニスト運動を支援していた」という誤った歴史認識を披露したというものです。

「左派って、ナチスがやったような反ユダヤ主義には厳しいはずじゃ…」という感想はまさにその通りでして、左派のリベラルというのは、本来このような人種差別を、「人権」や「平等」という概念を掲げながら徹底的に攻撃する役割を持っていたのです。

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