初のイスラム系市長誕生の英国に再発した「反ユダヤ主義」という誤算

 

ところが最近、このような状況に異変が起こりました。そしてその異変の原因は、労働党を始めとする左派のリベラルが進めてきた寛容(であったはずの)の移民政策にあります。

何度もいいますが、左派のリベラルの目指すのは、人権や平等、そして寛容な精神。ところがその精神を拡大して、自分の国に移民を受け容れ、しかも寛容に扱っていたら、撲滅すべき反ユダヤ主義という人種差別が復活してしまったということなのです。

もちろんその原因は、リベラルの人々が同時に推し進めていた「多文化主義」という政策。これは確かに「他の文化も認める」という意味で「寛容さ」を拡大したものとなるわけですが、イギリス(というか西欧全般)の場合、多数のイスラム系の移民が入り、彼らの文化にも寛容になった結果、彼らの(ごく一部でしょうが)過激な思想も野放しになってしまった、ということなのです。

その一つが、本来の左派のリベラルが忌み嫌っている「反ユダヤ主義」のような人種差別的思想。イスラム系の人々は、パレスチナ難民に同情する反イスラエルの人々が多いので、必然的に彼らの反ユダヤ主義が、逆にリベラルな西洋の国家の中で野放しにされて拡大してしまった、ということなのです。これはまさにルトワックの戦略論の核心にある「逆説的論理」(パラドキシカル・ロジック)に近いものです。

どういうことかというと、リベラルの人々は「寛容さを目指すがゆえに、「非寛容な思想を持った人々を受け容れざるを得なくなってしまったということなのです。もちろん目指していることが正反対の結果をもたらすことはよくありますが、イギリスの「反ユダヤ主義の撲滅を目指していたら、かえって反ユダヤ主義が蔓延してしまった」というのは、なんとも皮肉な現象であります。

今回ご紹介した例はかなり極端な例と言えるのかもしれませんが、これは何も国際政治や国内政治だけでなく、われわれ個人のレベルにも当てはまることではないでしょうか?

人間の生活には多かれ少なかれ、このような皮肉な結果をもたらす「逆説的論理」が働いていると想定してみれば、われわれは表向きの短期的な問題の解決ではなく、本質的なところまで見据えた、根本的な問題解決の方法を考える大きなヒントになるのではないでしょうか?

image by: Wikimedia Commons

 

日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信
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