地道にチェーンストア理論を実践
業績の好調の要因として、特に目新しいものがあるわけではありません。従来のチェーンストア理論を地道に実践してきたことが功を奏しています。充実した品揃えと低価格販売、標準化された店舗の拡大、近接商圏に集中して出店させるドミナント戦略、不採算店舗のスクラップ・アンド・ビルドなどを行っていきました。
西松屋は、売上高や店舗数といった「規模」の面では好調な業績を保つことができていました。しかし、「利益」の面では必ずしも好調に推移してきたわけではありませんでした。直近10年で見てみると、経常利益は07年では113億円ありましたが、その後は右肩下がりで低下し、12年には50億円にまで低下してしまいました。
12年2月期決算における利益面の不振は、2011年3月に発生した東日本大震災の影響が大きかったといえますが、そういった特殊な事情を除いて考えても、利益の低下を食い止めることができていない深刻な状況でした。
西松屋は、新規の店舗を未開拓地に出店させることで、規模の面では拡大を実現することができました。一方で、既存の店舗では同業の専門店や量販店、百貨店との競争にさらされていました。加えて、それまでは直接の競合ではなかったホームセンターやドラッグストア、ネット事業者などの参入により競争が激化し、特に利益の面で大きな脅威にさらされることになったのです。
同業の「フーセンウサギ」は自己破産した
競争の激化を物語る出来事が2013年に発生しました。「フーセンウサギ」が負債総額30億円で自己破産したのです。同社はベビー向け高級ブランドの「CELEC(セレク)」やライセンスブランドを扱う子供服製造卸企業です。売上高はピークである97年に299億円を計上していましたが、競争の激化によりその後は徐々に低下していきました。
フーセンウサギの業績悪化は、前述した販売チャネルの多様化と低価格競争の激化、少子化の進展による市場規模の縮小が大きく影響しました。当時はデフレ不況が色濃く残っていました。高級路線を歩んでいた同社でしたが、消費者の低価格志向圧力に対抗できるほどの経営体力がなかったことが自己破産につながったと考えられます。
フーセンウサギの自己破産に見られた競争激化の波はもちろん西松屋にも及んでいました。前述した西松屋の利益面の後退がそれを示しています。しかし、フーセンウサギと違ったのは、西松屋には競争激化に耐えられるだけの経営体力があったことです。
西松屋は、地道なチェーンストア理論の実践による規模の拡大が経営体力の増強につながりました。そのことが競争激化を生き抜いていくことに大きく寄与しました。しかし、理由はそれだけではありません。競争激化で低下していた利益を改善させたことが競争力を高めることにつながりました。