まるで人身売買。アメリカにはない「日本の芸能界」が抱える深い闇

 

「芸能人・スポーツ選手と契約の概念」

芸能人の場合に「事務所とのビジネス・スキーム」に見直すべき点がありそうだというお話をしましたが、それとは別に契約のあり方という点でも問題がありそうです。問題は、契約の概念が曖昧だということです。

例えば、今年に入って問題になった「CM違約金」「選挙出馬の問題」といった条項に関しては、以降は全ての芸能人と所属事務所の間で、もっと厳格に取り決めるべきだと思います。

つまり、想定される紛争のパターンは全て想定して、その際の扱いを契約書で取り決めるということにするのです。その結果として、契約書が分厚いものになっても良いのです。日本における日本語の契約書の場合は、必ず最後に「この契約に定めのない紛争については、双方が誠意をもって協議する」という条項が入れられます。

いかにも「日本らしい和の精神」に見えますが、違います。要するに、契約書に書いていない問題については、社会的・経済的な力関係で決定するということなのです。これではダメです。契約によるビジネスではなく、野蛮な暴力と強要の世界になるからです。

契約社会というのは、その味付けについては国によって異なりますが、例えばアメリカの場合、今年は多くの著名な野球選手がシーズン途中で引退していますが、レンジャースのプリンス・フィルダーにしても、ヤンキースのアレックス・ロドリゲスにしても、巨額の複数年契約の残りの期間については支払いが保証されています。その額は、フィルダーが96億円、ロドリゲスは27億円と言われています。

どうして、そんな額が払われるのかというと、フィルダーの場合は負傷理由の引退であること、ロドリゲスの場合は球団が申し出た自由契約であることから、契約に基いてこの金額が保証されるのです。大事なのは球団が「気前よく払う」というだけでなく、ファンも契約なら仕方がないとして文句を言わないということです。

少し以前の話になりますが、阪神から鳴り物入りでヤンキースに移籍した井川慶投手の場合、残念ながらアメリカンリーグへの適応ができず、一軍ではほとんど活躍できずにマイナーで投げ続けることになりました。その場合にも、5年間で20ミリオン(20億円、但し代理人のフィーをそこから払う)という金額は満額払われています。契約社会とはそうしたものだと思います。

今回日本で問題になっている「男女交際」「独立」「出馬」といった問題も、とにかく厳格に定めておく必要があると思います。その上で、もっと民事裁判というものを活用できるようにして、社会常識(公序良俗)に反するような契約は無効にするといった判例を積み重ねて、オープンな商慣習を作り上げるべきなのだと思います。

image by: Shutterstock.com

 

『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋
著者/冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。
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