遊べる本屋はどこ行った? 失速「ヴィレッジヴァンガード」の矛盾

 

ヴィレッジヴァンガードは顧客に何を提供しているのか?

私も個人的に大好きな書店であるヴィレッジヴァンガードを、マーケティング的に分析してみたい。

そもそも、ヴィレッジヴァンガードの事業コンセプトは何なのか? 何をもって、誰を幸せにしたいのだろうか? それは「本屋」でもなければ、「雑貨屋」でもない。ホームページにあるように、

One&Onlyの独創的な空間」を提供すること

なのだ。このコンセプトを核にして、独自な空間を演出する、店内の装飾やPOPなどは、各店舗の自由意志で開発されているため、各店舗での独自性はぶれることなく続いているのだ。

店舗で何をやるのか、という「施策」は星の数ほどある。店長の裁量で決めれば良いし、集客のための広告やPRも、経験値やその逆の突飛なアイディアを採用してもいい。しかし、それらが当たるかどうかは、「事業コンセプト」からぶれないかにかかっている

ヴィレッジヴァンガードは、もちろん書店として、または雑貨店として、物を売ることで収益をあげる。しかし、「売ろうとすると、消費者は引いてしまう。「楽しく過ごせる」場を提供することで初めて、「ヴィレッジヴァンガードに行こう」という気持ちになるのだ。

ヴィレッジヴァンガードが抱える量と質の矛盾

一方で、上場することでステークホルダーが増えると、成長が課され、事業を拡大することでの利益追求が求められる

ヴィレッジヴァンガードは「小売業」なので、拡大とは店舗数を増やすことになりがちだ。店舗数増大にともない、各店舗を任せる最も重要な経営資源の「人」も、拡充しなければならない。

サブカルというのはそもそも、メジャーではなく、良い意味での「アンダーグラウンド」なので、数量的に拡大していくと、店舗を担う人材の質がまちまちになり、ひいては店舗のインパクトも薄まってしまう。サブカル的な独自性と、数量的な拡大は、えてしてトレードオフ相反することが多いのだ。

しかし、ヴィレッジヴァンガードに関しては、先の本山店の閉鎖にもあるように、不採算店に対する見切りのスピードも早いようだ。経営にとって一番難しいのは、創り出すことではなく、撤退すること。この点において、ヴィレッジヴァンガードの戦略は今も素晴らしいと言える。

商品開発はどうだろうか? 小売業にとって、その店にだけある「商品」は、その店に行く最大の「理由」になるので、ある意味で、「命綱」と言える。ヴィレヴァンの新商品に関して、ここ最近の報道を見ていると、やはり積極的に新商品開発をしている情報が多い。はやりのPPAP、ピコ太郎さんとのコラボTシャツや、はなまるうどんとの共同企画、小田急電鉄との電光掲示板ウオッチなど、様々だ。

しかし、昔からのファンからみると、なにか「ヴィレヴァンらしさが感じられない。面白いが、他でもありそうなのだ。「奇抜な面白さではない

ここにも、「量を追い求めている」感覚が見て取れてしまう。やはりヴィレヴァンの商品でいうと、味噌汁の香りがする入浴剤や、青いジャムに青い紅茶、スライムカレーといった、いわゆる、「くすっと笑える」独自性溢れる商品がらしさだ。

創業以来、ずっとファンである私にとって、量の拡大はもちろん大歓迎なのだが、人と、そして、ヴィレッジヴァンガードらしい品揃えを崩すことなく、店舗展開してくれることを願う。

print
いま読まれてます

  • この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け