洗濯ばさみが灼熱で溶ける…砂漠国に生きる日本人主婦の過酷な日常

 

水に関してはまだあります。あるとき昼の12時に炊飯器を使おうと、米を洗いました。

熱湯が出るとわかっている水道でも、冷房の効いたキッチンで、冷えたボールに入った米と混ざれば、触れるほどの温度に下がるだろう、と予測して手を入れたら、あまりの熱さに飛び上がりました。熱湯も熱湯、とても手で触れられるような温度ではなかったのです。

蛇口からは、湯沸かしから出るような湯気がバァーっと上がって、シンクにモヤをつくりました。手が真っ赤に腫れ上がって、冷水をかけようにも水がない。慌てて冷凍庫から氷を出して手を包みました。こうした熱湯のせいで、家中の水道管は十年もすると壊れてしまうのです。

私が次にすることは洗濯です。汗かきの息子や夫は一日に2回くらい服を替えるため、洗濯物はたくさんあります。

このたび、洗濯物を干すたびに私は毎日毎日哲学者のように考えました。この灼熱の気候は「50度」という上っ面な数字だけでは決して理解できません。それは洗濯物を干すだけでよーくわかります。

なにしろ自分は、身体に突き刺さるような熱風の中で洗濯物を干しています。ビニール製の洗濯紐は熱でびよーんと延びきり、そこに重いものをかけると、さらに延びて洗濯物が地面につきそうになります。

5本ある紐のうち2本は電線で、中にワイヤーが入っているので、夏でも延びきることはありません。夫が「これが一番いい」と、洗濯物干しに架けてくれたのです。だから重いものはほとんどその2本に干しています。

さらに驚いたのは、洗濯ばさみが溶けていることです。

我が家の洗濯場は駐車場にあり、屋外と言っても屋根があり、日陰です。だから洗濯ばさみだっていちいち取り込まないのですが、いざ服をはさもうとピンの上部をつまむと、溶けて柔らかいため下部が開かないのでした。硬いプラスチックでできた洗濯カゴも、日陰に置いておくだけで表面が溶け始めていました。

洗濯ばさみが溶ける国に生きる人間は、いったいどれくらい早く消耗するのだろうと、私は毎日考えずにはいられません。

真面目に、1時間の労働は1時間なりの成果がないといけないと考えて、自分を追い込み猛烈に頑張ることは、愚かな行為です。1時間の労働で1分の成果もないことだってあり、頑張った分だけ健康を損ねる場合もあるのです。

賢く怠惰にのんびりと生きていかなければ、とても長生きはできない。誰かと競争して、競り合って押しのけ、自分が勝ったところで、仲間と集団で生きなければこの厳しい自然環境は乗り切れません。

だから、他人を蹴落とす競争社会に生きる生活なんか、まったく向いていない。できるだけ労働を少なくし、しょっちゅう休む癖をつけないといけない。そして、そんなことを自然環境の優しい国の人間にいくら筆舌を尽くして説明しても、わかってもらえないことを、私は理解しています。

>>次ページ ゆとりの時間を奪う“蟻との戦い”

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