洗濯ばさみが灼熱で溶ける…砂漠国に生きる日本人主婦の過酷な日常

 

それから、毎日の生活の中で気が変になるほど私を追い詰めているのは、蟻の大群です。

砂漠だから蟻がいるのは当たり前。でも、キッチンやカーペットや家の隅や玄関先だけでなく、食器棚にもテーブルの上にも寝室にも壁や天井にも無数の蟻がいるのです。

黒いフライパンの表面が何か映っているなぁとよく見ると、蟻の大群がひしめいていたり。ぴかぴかに磨いた白い食器に、目に見えないくらいの茶色い蟻がうごめいてベージュ色に変わっていたり、ぞっとするようなことばかりです。

メイドがいなくて掃除が至らないせいでなく、毎年夏になると、蟻が巣をつくるために大群をなして、庭でも屋上でも壁のコンクリートの割れ目でも、何日間も何億匹も群れてくるのです。

ちょっとでもテーブルに甘いものを忘れようものなら、数分後には無数の蟻がたかっています。コーンフレークスをきつくゴムで縛っておいても、ゴムの間から1ミリほどの蟻が入り込みます。ジュースのコップを置いていたら、真っ黒になるくらい蟻が群れています。

私は蟻と闘うために、食後にゆっくりする暇もなく、急いで食器を洗わなければならず、あらゆる食材を冷蔵庫にしまわなければならず、きれいな鍋やコップでも使う前には必ず洗わなければならず、しょっちゅう掃除機をかけなければならず、コンクリの隙間に殺虫剤を撒かねばならず、そんなことに時間をとられて、ゆっくり座ってお茶を飲む暇もないのです。たかが蟻のために!

しかし、砂漠の民である夫は平然としています。「蟻だって、夏前には巣作りしなきゃならないだろ。餌をたくさん集めて、女王様のご機嫌を伺って、卵をたくさん産んで、種の保存に努めなきゃならない。みんな必死で働いているのさ」

この寛容な言葉に私は腹が立って、夫は自然保護主義者なのか、それとも動物愛護主義者なのか、偽博愛主義者なのかといろいろ疑ったことがありますが、どうやら単純に、この灼熱に生きる動物すべてを慈しんでいるようなのでした。要するに同じ仲間という意識です。

こうして日本の普通の主婦であったらまったく感じることのない困難・する必要のない雑事に追われ、先進国だとは信じられないほどの不便さと闘い、地球環境の変化のために想像を絶する灼熱と闘っている間に、もっと大変なことが私の家族を待ち受けていたのでした。

image by: Shutterstock

 

『アラブからこんにちは~中東アラブの未知なる主婦生活』
国際結婚して24年、アラビア湾岸にあるUAEから5人の子育て、地域活動、文化センター設立などを通して、アラブ世界を深く鋭く観察し、エッセイで紹介。
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