間の悪い日露交渉に一方的に期待した「平和ボケ」日本の大誤算

 

台湾の英字紙が一面トップで伝えているこの記事は、そんな懸念を象徴しているものといえましょう。1949年に国民党を台湾に押し込み、中国本土に現在の中華人民共和国が成立したとき、アメリカは中国大陸と台湾との間に軍艦を派遣して国民党を守りました。しかし、やがて現在の中国の政権が安定し、多くの国が新生中国を承認したとき、アメリカの当時の大統領ニクソンも、中華人民共和国との国交を正常化したのです。以後、国民党の中華民国は、「台湾」としての道を進みます。

近年中国が経済力をつけ、超大国へと成長した段階で、もはや台湾は台湾としての特殊な状況をいかに受け入れて国家を維持するという現実を受け入れてゆかなければなくなりました。そして日本もアメリカも、建前上は台湾との公の外交関係は持たない状況で、中国と台湾との微妙な関係をそのまま維持しようとしているのです。そんな状況の中で、中国は南シナ海にある島々の領有を主張し、強引にも周辺国の抗議をよそに、島に基地を建設するなど既成事実を積み上げているのです。

先週、その海域を航行していたアメリカの無人潜水艦が中国の艦船に確保されるという事件がおきました。アメリカは厳重に抗議しますが、中国はそれを突っぱねます。こうした緊張は、台湾の不安をますます煽るはずです。トランプ次期大統領は、そうしたデリケートな状況を理解してかしないか、中国の習近平政権にコンタクトをしないまま、台湾の蔡英文総統との電話会談に応じ、台湾に一方的にエールを送りました。

1940年代から50年代にかけてならまだしも、微妙な力関係と緊張の中でバランスをとっている台湾の情勢を考えた時、建前を逸脱した台湾偏重のメッセージは、メンツを重んじる中国を刺激するだけではなく、台湾そのものの存在をも脅かすのだというのが、オバマ大統領がトランプ氏におくったメッセージなのです。

日本にとって沖縄の基地問題は重要な課題です。しかし、台湾にとってみれば、そぐそばに米軍が控えていることが、安全の面からみると極めて重要です。日本のニーズというよりも、東アジアのニーズのために沖縄に米軍が駐留しているというのが、アメリカのスタンスなのです。であれば、台湾や南シナ海での緊張が高まれば、沖縄の人々を苦しめる基地の重みを軽減することはますます困難になるのです。

フィリピンに中国寄りと思わせるデュテルテ政権ができ、ベトナムやマレーシア、そしてインドネシアは複雑な心境を抱いています。中国はベトナムの隣国で南シナ海に権益をもたないカンボジアに経済援助を増やし、ベトナムを挟み撃ちにしようとしています。この微妙な関係の背景に、アメリカの沖縄でのプレゼンスがあるというわけです。そして、その微妙な背景の上に、北朝鮮問題やそこと関わる中国やロシアの極東政策があることになります。

これは、日本だけではなく、韓国にとっても同様の課題です。日本と韓国とが、不毛な隣人憎悪を抱き合う前に考えなければならないこうしたグローバルな状況に、次期トランプ政権がどう動くのか。さらに、そのトランプ政権自体が、ロシアのハッキング問題などを抱えながら、安定した政権になるのか。

来年我々が注視しなければならない課題は山積みなのです。

心をつなぐ英会話メルマガ
たくさんの単語を覚え、丹念に文法を学習し、発音練習とヒアリング訓練に明け暮れても、英語で上手にコミュケーションがとれるようになるとは限りません。
それは、会話の背景に育った国・地域の文化や習慣の影響があるからです。
このメルマガでは、相手の趣旨を出来るだけ理解し、自分の意図ををより正確にに伝える「異文化コミュニーション」の手法をお伝えします。
メルマガ無料登録はこちらから>>

image by: Shutterstock

print
いま読まれてます

  • 間の悪い日露交渉に一方的に期待した「平和ボケ」日本の大誤算
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け