もう一つには、現時点で基本的に「人手不足」である日本国内では、サービス産業を中心として雇用が提供できているので、例えば「国際競争力のある、従って安い労賃」での「製造業」が国内回帰しても、そんなに喜ぶ人はいないわけです。
では、日本の空洞化は必然であり、反対する理由はないのかというと、私はそうは思いません。というのは、日本の空洞化は「筋が悪い」からです。どういうことかというと、自動車産業がいい例ですが、日本の空洞化は「製造拠点を外に出す」段階は既に十分に進んでおり、現在は「先端部分を外に出す」というプロセスになっているからです。
自動車産業はR&Dを外に出し、ITはシリコンバレーとの協業に走り、一部の製造業は事務部門の本部機構を準英語圏に出すなど、頭脳労働・意思決定に近い中枢の部分がどんどん外に出ていく時代になっています。
これは大変なことで、このまま行けば、日本は観光立国とか福祉国家といえば聞こえはいいものの、サービス業中心の低付加価値労働だけが残った国になってしまうからです。
多国籍企業にしても、最終的に超円安になってしまえば、ドルでの出資が増えていって、気がついたら多くの主要産業が「元は日本企業」だったものが、過半数以上のオーナーシップは国際化ということにも、なりかねません。そうなれば、内部留保を日本に還元などということも消えてしまいます。
今年はこの問題を皆さまと考えていきたいと思っております。
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『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋
著者/冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。「ニューズウィーク」日本版にてコラム「プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」を連載。また、メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。