文科省が隠蔽工作。早大「天下りあっせん」事件のあっけない幕切れ

 

実はこの大学総合研究センター、昔からあったわけではない。2014年2月に設置されたばかりなのである。では、何をする部門なのか。ホームページにはこう書いてある。

本学の教育、研究、経営の質的向上に資する自律的・持続的な大学改革を推進する。

どうやら大学改革が目的のようだ。次に同じホームページに掲載された吉田教授のプロフィールを見てみよう。

専門分野は高等教育政策、著作権制度。大学総合研究センターでは、国の高等教育政策の動向の調査研究、文部科学省等の各種事業関係に関する連絡調整等への関与(大学への助言)を行うとともに、著作権制度に関わる調査研究と、教育の情報化に伴う大学としての著作権処理などの業務に従事する。

たくさん言葉が並んでいるが、要するに文部省とのパイプ役である。

橋本周司副総長がセンターの所長をつとめて体裁を整えているが、事務局に教授の肩書で入ったのは吉田氏が最初だ。吉田氏を早大に招くためにつくられた部門に見えなくもない。破格の扱いといって差し支えないだろう。

大学への助成金の配分などを決めていた高等教育局の局長が、大学改革を名分にした新設センターに天下りし、古巣である文科省とのパイプ役をつとめるというのである。

さすがにこれほど露骨なケースは珍しいかもしれない。監視委員会に「なぜ黙認するのか」などとクレームがつくのは時間の問題だっただろう。委員会としてはここで動かなければ存在意義を問われかねない

調査をすると、その天下りに現役の文科省官僚たちが関与していたことが判明した。省ぐるみの国家公務員法違反だ。

再就職等監視委員会は中立・公正の第三者機関を謳っているが、首相の権限委任を受けて内閣府に設置されており、タテマエはともかく、官邸の支配下にある。通常国会開会直前でもあり、委員長は内々、どうするべきか官邸におうかがいをたてたことだろう。

そこからは、官邸がすべてのシナリオを描いたに違いない。

まず、官邸の誰かがNHKにリークし、NHKは1月18日未明のニュースでスクープ報道をした。

各社が後追い取材をするなか、菅義偉官房長官は18日の記者会見で「実際に行われていたとすれば極めて遺憾だ」と述べた。

次に、再就職等監視委員会が20日午前、調査結果を公表した。

文科省人事課の職員が、吉田氏の在職中に履歴書を早稲田大学に送付したこと。早大の担当者に口裏を合わせるよう依頼していたこと。さらにはOBを介在させた組織的な天下りが平成25年から確認できただけで38件あったことなどが明らかにされた。

そのころ官邸では菅官房長官が会見し、「総理から山本国家公務員制度担当大臣に、他府省でも同様の事案がないか、調査するよう指示しました」と述べた。

同じく20日付で、前川喜平事務次官は自ら吉田氏の再就職に関与した責任を取り依願退職。吉田教授もまた、同日、早大教授を辞職した。

早稲田大学もまた20日午後5時から記者会見。鎌田薫総長は「本学の理解が不足し、文部科学省の違法な斡旋行為を止められなかった」と語った。

要するに、文科省が私学の雄、早稲田大に新しい天下りポストをつくるため、幹部や人事部門が総がかりで働きかけ、大学側も補助金や学部、学科新設などで文科省との間の風通しをよくしておきたいという思惑があったので、受け入れたということだろう。

print
いま読まれてます

  • この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け