こういう意識でいることが、いかに恐ろしいことかが社長はまるで分かっていません。
「分かりました。いいですよ、そのままお客様に配布しても。その代わり、ちょっとした綻びから信頼はどんどん落ちていきますよ。ちょっとくらい大丈夫、の意識が芽生えだすと、販促物だけではすまなくなりますよ」
「どういうことですか?」
「たとえば、商品にほんの少し傷があったとして、お客様から返品があったとします。その時、社長はそのお客様に向かって『ちょっとの傷くらい問題ありませんよ』て言って、返品を拒否をし、そのまま販売するのと同じです。実際、そんなことしませんよね。でも、今の意識はそれと同じことなんですよ。もっと云うと、社長が『ちょっとくらいなら』って意識でいることはスタッフも肌で感じ取るんです。『社長もあー言ってるんだから、ちょっとのことくらいいっか』って。そして、自分に都合の悪いことが起きれば平気で隠したり、クレームを簡単に処理したり、あるいは、手抜きを覚えたり、というような様々な悪い空気が蔓延してきますよ。そうなると、どんなことになるか分かるはずです。確かにちょっとのことくらいだったら、お客様も取引先も見逃してくれたり、許してくれたりするかも知れません。でも、そこに甘えていたら、信頼なんてものは簡単に崩壊していきますよ」
「確かに。お客様あっての商売、ビジネスですもんね。甘かったです」
その後、販促物は、数時間かけてシュレッダーに。そして、会社が伸び悩んでいる根源は、こうした意識の甘さにあると社長は改めて認識し、社内ルールに「ちょっとくらい、は禁句」という項目が加わりました。