中野に行ったら立ち寄りたい、怪獣たちのいるところ

 

気になるのは、展示作品。これらソフトビニール製の怪獣たちは、どういったいきさつで集まってきているのだろう。

「ピコピコさん以外にも、怪獣のオリジナルソフビ(ソフトビニール)を作るお客さんが5、6人いて、その方々の作品です。ソフビのイベントがあって、そういうところで知り合うんです。本職はそれぞれ彫金師やCMディレクターなど、ばらばらですね。そんな人たちが自分でデザインをし、下町の工場に交渉して作ってもらったり。オリジナルソフビの魅力ですか? やっぱり著作権がオールクリアなところですね。自分の作品なんですよ。ですから、コレクションとはまた違った喜びがあります」

ここに並ぶ怪獣たちは、言わば作家たちが目に入れても痛くないほどかわいい我が子。それゆえこのサロンは情愛に溢れていて、いるだけでおだやかな気持ちになる。そしてそれは、表に立つ、ユーモラスな造形の、あの謎めいた赤い怪獣によるところも大きい。

「あの娘はピコピコさんがデザインした、小悪獣ムーチョという名前のホステスです。お父さんはタコでお母さんが金魚というハーフなんです。そうだ、今日はたまたまスーツアクターの方がいらっしゃっているので、かぶっていただきましょう」

え! 実際に動かせるのですか?!

支柱からはずすため、奥様から思いっきり口に手をつっこまれるムーチョちゃん。

支柱からはずすため、奥様から思いっきり口に手をつっこまれるムーチョちゃん。

 

上半身をはずすのもふたりががり。

上半身をはずすのもふたりががり。

 

おほほ。偶然いらっしゃっていたスーツアクターの方が中に入り、いっそうチャーミングに。

おほほ。偶然いらっしゃっていたスーツアクターの方が中に入り、いっそうチャーミングに。

そうして小悪獣ムーチョは「中の人」の飛び入りで命を宿し、プリティなしぐさで僕を悩殺した。

こんなふうに笑みが絶えない空間にいて、中野さんは目を細めながら、再びしみじみとこうつぶやいた。

「副業を始めようと思ったのは、正直言って、本職がうまくいかなくなっていたからなんです。2011年頃からVシネ業界、AV業界がほんと景気が悪くなって、仕事がなくなってきていたんです。追い討ちをかけるように東日本大震災が起きて、あれが決定的でした。業界が先細りなんで、『別口の仕事を探さないと……』と考えて、この店を始めたというのも動機のひとつなんです。しかしお店を開いたら、とたんにウルトラマンの仕事が来たり、忙しくてなかなか顔を出せないほどになってきて。風向きが変わって、ほんと、不思議なんですよね」

思えば怪獣のデザインというのは、クリエイティビティのかたまりだ。二次元怪獣ガヴァドンのように、純度の高い創造物がいつか魂を宿し、ここに集っているのでは。そして人間たちに熱い息を吐きかけ、闘いを挑んでいる。怪獣たちがあげる気炎が、人間たちの運気をも燃えあがらせようとしているのかもしれない。

いやあ、眼の神様がつかさどるこの新井薬師で、いい眼の保養になったなあ……と感動していた矢先の突然、それまで外で夜の巷を徘徊していた怪獣が、デラックスな体躯を揺らしながらのしのし店へと入ってきた。

大怪獣サロンに突然入ってきた怪獣。

大怪獣サロンに突然入ってきた怪獣。

ガチのノンアポロケだ。

タレントさんの写真を勝手に載せていいかどうかわからないので目線を入れておいた。怪獣が魂を宿す場所には、やはり怪獣が吸い寄せられるのだな。東京ならではのサプライズ。こんなことに出くわすなんて、夜ふかしはしてみるものだ。

大怪獣サロン
東京都中野区新井1-14-16
ライオンズマンション中野第5 B-101
03-5318-9980
営業時間 平日15時~23時
土曜、日曜、祝日は13時~23時
18時以降はBAR TIME
不定休

「お写真、撮らせてください」と頼んだら、とっさにレジ袋をかぶったお客さん。大怪獣サロンの夜はミステリアス。

「お写真、撮らせてください」と頼んだら、とっさにレジ袋をかぶったお客さん。大怪獣サロンの夜はミステリアス。

 

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放送作家の吉村智樹とイラストレーターのせろりあんが散歩や小旅行で出会った心くすぐられるスポットやユニークな活動をしている人物を紹介する旅情あふれるメールマガジン。画像満載でお届けします。
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