屈辱の容認。なぜ中国は北朝鮮をあっさり捨てたのか?

 

1つは彼の就任以来の経済衰退の加速化であり、習政権の経済政策に対する不安が拡がっていることである。そしてもう1つはやはり、対アメリカの外交問題である。習氏は国家主席になってから、以前のオバマ政権の下でも、南シナ海問題などを巡って米中対立が高まり、米中関係は非常に不安定になっていた。今のトランプ政権となると一時、トランプ大統領とその側近たちは南シナ海問題や貿易問題でオバマ政権以上の対中強硬姿勢を示したり、長年のタブーを破って、中国にとって最も敏感な台湾問題を持ち出して中国と大喧嘩する素振りまで見せた。

こうした中で習近平政権はずっと守りの姿勢で、アメリカの攻勢を交わすのに精一杯であったが、トウ小平の時代以来、対米外交はずっと、中国の外交戦略の基軸として認識されていて、歴代指導者は例外なく、対米関係を軌道に乗せて安定化させることによって初めて、自らの指導者としての立場を確立できた。世界最強国のアメリカと対等に渡り合って中国の大国としての地位とメンツと国益を守ることのできる指導者こそが、中国国内では本物の指導者として認められているのである。

したがって、秋の党大会に向けての独裁体制づくりと強い指導者としての自らの地位の確立のためには、習主席は1日も早く、トランプ政権との対立や摩擦に終止符を打って、中国の大国としての地位をアメリカに認めてもらい、米国との「新型大国関係」の確立を急がなければならない状況なのである。

まさにそれが背景となって、習主席は中国長年の伝統をあっさりと放棄し、米国の北朝鮮攻撃を容認するような姿勢を示したのであろう。言って見れば彼は、自らの独裁体制の確立のために、もう一人の独裁者の金正恩氏を見殺しにすることにした、ということである。

しかし、習近平氏はそこまでしてトランプ政権に迎合して、国内における自らの権力基盤の強化と独裁体制の確立を急がなければならないということは、それは逆を返すと、共産党政権内における習近平氏自身の権力基盤は依然として脆弱なものであることの証拠であり、彼が本物の独裁者になるには依然として多くの困難があることを意味している。国内の政治において、習氏は依然として「弱い指導者」であるからこそ、外交上の失敗を避けて、逆に外交上の得点を持って自らの権威樹立に努めなければならないのである。

実際、米中首脳会談に関する中国国内の報道を見ると、北朝鮮問題が会談の焦点となったことも、習氏が北朝鮮問題で米国に譲歩したことなども一切報道されず、習氏の米国訪問は米中間の「新型大国関係」の樹立を大きく前進させた「歴史的大成功である」との宣伝一色となっているが、それはまた、習氏が、対米外交の実績を欲しがっている何よりの証拠であろう。

しかしそれでも、秋の党大会開催に向けて、習氏の独裁体制の確立を邪魔する要素は依然として存在しており、党大会後の最高指導部人事や権力構造は彼の思惑通りになるとは限らない。実はこのことは、先日の習近平氏訪米の際、中国側の代表団の布陣からも見えてきているが、これに関する分析は次回のメルマガに譲る。

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石平『石平の中国深層ニュース』

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