神社の鳥居からヒントを得て開発され、スカイツリー、新幹線、そして各国の高速鉄道にも採用されている、絶対にゆるまないネジ「ハードロック」。純国産にこだわり、今や全世界に受け入れられるまでになった「革命的なネジ」ですが、そこに至るまでには苦難の道のりがありました。今回の無料メルマガ『Japan on the Globe-国際派日本人養成講座』では、感動的ですらあるそのストーリーが紹介されています。
「絶対にゆるまないネジ」はいかに生まれたか
高さ世界一の電波塔「スカイツリー」。高さ634メートルは「武蔵の国」のムサシの語呂合わせだという。その最先端の技術の中に「和の伝統」がちりばめられている。中心に直径8メートルの「心柱(しんばしら)」が建ち、地震の揺れを低減する構造は、法隆寺の五重塔などと同じだ。
地表部分の断面は三角形だが、上に行くにしたがって徐々に円形になっていくので、側面は場所によって、反っている部分と、ふくらんでいる部分が見える。反りは日本刀の刀身の美しさである。ふくらみは、古い神社仏閣の柱で「起(むく)り」と呼ばれる、少し膨らませて柔らかな印象を与えるデザインである。
もう一つ、使われているのが「絶対にゆるまないネジ」。東大阪市の中小企業・ハードロック工業株式会社の社長・若林克彦さんが、神社の鳥居で見たクサビからヒントを得て、開発した商品である。
ネジは、ねじ込まれたボルトが元に戻ろうする力で、かならず緩むものである。そのために定期的に点検し、「増し締め」しなければならない。高い鉄塔での増し締めは危険だが、それを怠るとネジが緩んで倒壊の危険を招く。
そんな場所では「絶対にゆるまないネジ」は貴重である。「絶対にゆるまないネジ」は、瀬戸大橋や新幹線、原子力発電所などで広く使われている日本の誇る技術である。
ハードロック工業は、東大阪にある従業員70名弱の典型的な中小企業だ。ネジという極めて成熟度の高い業界で、しかも100%国内生産を貫いている。通常なら、こういう企業は安価な中国製品に圧倒されて廃業するか、あるいは生産を中国に移すしかない。いずれにせよ人件費の高い国内生産は維持できない。
しかしハードロック工業のネジは、他社が真似できないので、価格競争とは無縁だ。昭和49(1974)年の創業以来、一度も赤字を出したことがない。この「絶対にゆるまないネジ」がどのように誕生したのか、その軌跡を辿ってみよう。