ヒントは鳥居。日本が世界に誇る「絶対ゆるまないネジ」誕生秘話

 

「アイデアは人を幸せにする」

アイデアは人を幸せにする、というのが、若林さんが10歳の頃の体験から学んだことだった。大東亜戦争の末期、長野県の田舎に疎開していた時のこと、大人たちが腰をかがめて、一つ一つ等間隔に種を蒔いていく重労働を見て、「楽に種蒔きをする方法はないのか」と考えた。

するとアイデアが閃(ひらめ)いた。一輪車を小型にしたような器具を作り、車輪部分に一定間隔で穴を開け、種を入れておく。この一輪車を転がせば、等間隔で種が蒔ける。

腰をかがめることなく、楽な姿勢で効率よく種蒔きができるので、まわりの大人たちの喜んだこと! 「アイデアは人を幸せにする」ことを、10歳にして若林さんは知った。

高校生の時には、つけペンのペン先をインク壺につける際に、つけすぎたり、つけ足りなかったりする困り事を解決するために、いつも一定量のインクをつけられる「定量付着インク瓶」を発明して、文具メーカーに実用新案として売り込み、30万円も得た。

インク壺のように長年使われてきたものでも、まだまだ困りごとがある。それを、新しいアイデアで解決する事で人を幸せにできるのである。

独立と初受注

大学を卒業した若林さんは、技術者として大阪のバルブメーカーに就職したが、発明への情熱は持ち続けていた。昭和36(1960)年、27歳の時、国際見本市でネジの緩みを防止するために、ナットの中にコイル状のバネを入れて、戻り止め効果を出している商品を見つけた。

値段を聞くと、これが高い。直感的に、バネをコイル状ではなく板状にすればもっと簡単に安く作れる、と閃いた。そして思った。「この商品は必ず売れる。この商品を世に広めたい。よし、そのために会社を作ろう」

翌年、会社を辞め、この板バネを使った新製品「Uナットを売るための新会社を弟と友人の3人で立ち上げた。早速、ネジ問屋に飛び込み営業を始めたが、「こんなもん使えるか」と、まったく相手にされない。そこで気がついたのは、問屋は今売れている物しか扱わない、ということだ。全くの新製品なら、ネジの使い手である工場を回らなければならない。

しかし東大阪にたくさんある中小企業の工場を回っても、どこも相手にしてくれない。どこも忙しいので、使えるかどうか分からないものを試してくれる所などないのだ。

そこで作戦を切り替えた。とあるコンベアの工場を訪問して、その片隅に、Uナットを一箱置いてきてしまう。その後で、電話して「よろしければ使ってください」と伝える。「そんな勝手なことして…」

2~3週間して、その工場を再訪すると、「一般ナットの在庫が切れたので使ったで。伝票入れといて」と言ってくれた。勝手に置いていったものだから、お金はいらない、と言ったが、相手も「タダではモノは受けとれんわ」と承知しない。

これが初受注だった。若林さんは、この時ほど嬉しかったことはない、と言う。しかし、さらにUナットを使ったコンベアを出荷した先まで出向いて、問題なく使えているか、確認した。コンベアで最も振動の激しい場所に使われていたが、「まったくゆるみもないし問題なく使っているよ

このコンベアメーカーからは、継続的に注文が入るようになった。たまたま、そこがコンベア業界では大手だったので、そこで使われているということで、他のメーカーでも広く使われるようになった。

この経験から、若林さんは、良い製品があっても売れるとは限らない。その良さをお客さんに理解して貰う営業活動が欠かせない、と気がついたのである。

困った時の神頼み

Uナットの事業は軌道に乗り、昭和48(1973)年頃には、従業員80名、月商1億3,000万円ほどに成長した。

しかし、ある時、「なんや、絶対にゆるまへんのと違うんか!」とものすごい剣幕のクレームを貰った。スチームハンマーでコンクリートパイルを打ち込む「杭打ち機」のメーカーからだった。

緩まないと思って使っていたUナットが緩んでボルトが折れ機械が壊れてしまったという。「もし人身事故にでもなったら、どないしてくれるんや!! 機械の修理費用は、あんたのところでもってもらうで!」

さすがのUナットも杭打ち機のような強い衝撃が続く機械では、緩んでしまうことが分かった。万一、これで大事故が起こったら、どうするのか。若林さんは真剣に悩んだ。そして、決心した。「どんなことがあっても絶対にゆるまないナットをつくろう!

しかし今回ばかりは行き詰まってしまった。事業の傍ら、いろいろと考案・開発を重ねたが、激しい振動を与えると、どうしてもネジは緩んでしまう。

「まあ、気分転換に神頼みでも」と近くの住吉大社にお参りにいった。その鳥居の前で若林さんは、ふと、足をとめた。「これや! これやがな!

鳥居の縦の柱と、横に渡した貫(ぬき)の繋ぎ目にクサビが打ち込まれている。同様にボルトとナットの間にクサビを打ち込めば、強いゆるみ止め効果が得られる。そこから工夫を重ねて、2個のナットを重ね、上のナットの中心をずらして、ねじ込むと下のナットの一片を強く押さえ込む構造とした。

試作して、何回着脱を繰り返しても、絶対に緩むことがないことを確認できた。若林さんは飛び上がるようにして喜んだ。「これからは堂々とお客様に商品を使ってもらえる!

クレーム、すなわち、お客様の困り事から逃げないことで、絶対にゆるまないネジ、「ハードロックが誕生したのである。

print
いま読まれてます

  • ヒントは鳥居。日本が世界に誇る「絶対ゆるまないネジ」誕生秘話
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け