1日で1億円売った伝説の販売士も。実演販売プロ集団の「伝える力」

 

実演だからこそ伝わる~秘密のメソッド大公開

実演販売と言えば、江戸時代から続くガマの油売り、寅さんでおなじみのバナナの叩き売りなど、師匠から弟子へ話芸を引き継ぐ伝統芸能のようなものだった。だが吉村は、そんな伝統芸とは一線を画し、客に商品の良さを伝える真っ当なビジネスを目指した

そのために教科書まで作った。売り口上を丸暗記するのではなく、商品と客を結びつける方法論が書かれている。吉村は実演販売を理論化することに取り組んだのだ。

まず始めたのが、売り上げが良かった150以上の商品の実演口上のデータベース化。それを分析して共通点を探り、吉村理論を生み出したのだ。この吉村理論に従えば、誰でもどんな商品でも、実演販売で売れるという。

この日、「東急ハンズ」渋谷店の売り場に立つのはワッショイ浜こと浜辺博史。実演歴6年目だが、緊張気味だった。売る商品はメイクを落とす時に水だけで落とせる「メーク落としタオル」。「美容商材を売るのは初めて」だという。

まず浜辺は、まだお客がいないのに売り口上を始めた。これは「空卓(からたく)を打つ」という実演販売の基本テクニック。声を出すことで存在をアピールし、商品に興味があるお客を誘っているのだ。

ものの1分も一人で喋り続けていると、通りすがりの男性客がチラリ。するとすかさず「よかったら触ってみてください」。これは「陣寄せ」というテクニック。お客が話を聞いてくれる距離に引き寄せるのだ。立ち止まってもらえたら第一関門クリア。ここから代表の吉村が理論化した実演口上が炸裂する。

ひと目で分かるデモンストレーションで、まず視覚に訴える。続いて「ちょっとやってみましょうか?」と、お客の手にメイクを施す。客自身に体験させて、商品の良さを体で実感してもらうテクニックだ。さらに「超極細繊維になっていまして、髪の毛の何百分の1の繊維がループ状になっていて、毛穴の奥まで入り込むんです」と、商品の特徴を詳しく解説。耳から入る情報で知的好奇心を満たし、納得させる。視覚聴覚身体感覚の3つの感覚に訴える実演を組み合わせていくのが、吉村理論なのだ。

ダメ押しに、「2999円ですから、500回使うとしたら、1回6円なんです」。洗って繰り返し使えるから、使い捨てのクレンジングシートよりずっとお得だとアピールした。

すると見事、お買い上げ。「嫁にプレゼントで買ったんです。子ども生まれたばかりで忙しそうなので、風呂で簡単にできるならいいかな」と、男性客は言う。

初めての商品にもかかわらず、浜辺はこの日、メイク落としタオルで3万6千円を売り上げた。

420万枚売れた激落ちクロスも~埋もれた商品の大逆転秘話

コパ・コーポレーションは単なる実演販売集団ではない。扱うほとんどの商品の「販売元」となっている。つまり卸売業。どこで売れようと、売上げがコパに入ってくるビジネスモデルなのだ。そんなコパの「売る力」に多くの企業が注目している。

この日も、あるメーカーが商品を売り込みに来ていた。切れ味がバツグンにいいという「ハサミ」だ。コパの売る力、それを支えるのが目利き力だ。いい商品なのに埋もれている中小メーカーの商品を仕入れて売る

「メーカーのこともよく考えていただいて。お互いがウィンウィンになるように親身になって考えてくれる」(協和工業の中村直樹さん)

最近、持ち込まれて売り出したのがカビ取り剤の「スパイダージェル」。通常のカビ取り剤は、吹きかけても垂れてしまう。一方こちらはジェル状。垂れないので、カビの上に長くとどまっていられる。去年、東京下町の接着剤メーカーが持ち込んだものにコパが商品名をつけ、テレビ通販などで売ったところ、人気に火がついた。

「全く販路がなくても良い商品であれば、うちはいくらでもお手伝いすることができる」(吉村)

実演販売士たちも全国各地を回って売れる商品を発掘している。そんな中から、コパ最大のヒット商品が生まれ、小さなメーカーが救われた。

販売員のレジェンド松下が訪ねたのは、キッチン用のクロスやタオルを製造する縫製メーカー、シー・アイ・シー美鈴。洗剤要らずで油をからめ取る「パルスイクロス」は3年前の発売以来、累計400万枚以上、およそ25億円を売り上げたコパ・コーポレーション最大のヒット商品だ。商品はすべてこのメーカーが作っている。手作業で1日におよそ1万枚。全国の店頭やコパのテレビ通販用に出荷している。

4年前、この商品を発掘し、ヒットさせたのが松下だった。実は同じの布を使ったクロスは、それ以前もこのメーカーが独自に商品化していたが、あまり売れなかった。いろいろなメーカーが安い使い捨てのクロスを出しており、その中で埋もれてしまったのだ。

「そもそもこれはたぶん普通に置いてあっても売れない。喋んなきゃ売れない商品。喋ると『そういう商品なんだ』とわかる。まさに実演販売向きの商品だと思います」(松下)

これはいけると確信した松下は、売れる商品にするためメーカーとともに改良を加えた。まず、縫い目を隠すために袋状にした。こうすることで、ふちの部分の拭き残しがなくなる。さらに掃除が楽しくなるよう、色をカラフルに、バリエーションも増やした。

およそ5ヶ月をかけて新商品が完成。「パルスイクロス」と名づけてテレビ通販で実演販売したところ、いきなり生産が追いつかないほど注文が殺到。それまでの3倍の人を雇い、ミシンも増やした。それでも毎日、大量の発注をこなすのにフル回転だという。

「本当にうれしかった。キターって。食べていくのがやっとの業績が、『パルスイクロス』が売れて急にドーンと上がりました。これだけ売っていただいてありがたいです。みんなも喜んでます」(シー・アイ・シー美鈴の鈴木美佳社長)

「目利き」と「売る力」で中小企業を救っているコパ・コーポレーション。2年前には台湾にも進出中国語で実演販売を始め、その様子が地元のニュースでとりあげられるなど、話題になっている。

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