世界シェア・トップを誇る日本の中小企業にあった「3つの共通点」

 

歯医者さんの照明が替わっていた

昔の歯医者さんが頭に付けていた丸い鏡を覚えているだろうか? 額帯反射鏡、またはヘッドミラーと言い、患者の口内に丸い鏡で光を当てながら、患部を観察する。鏡の中心に穴が開いていて、そこから覗く格好で使う事もできる。

この鏡がいつのまにかなくなって、最近ではデスク・ライトのような照明で、患者の口の中を照らす。単なる照明器具と思ったら大間違い。デンタルミラーと呼ばれ、次のような3つの革新的な機能がある。

まず、医者の手や手術器具の影があまり出ない。ライトは特殊な反射鏡で光を送るが、鏡の表面に細かい湾曲がたくさんあり、いろいろな角度から光が差し込むので、影ができにくい。昔のヘッドミラーを頭につけていたのは、医者が頭の位置や角度を変えて、光の当て方を細かく調整していたのである。このデンタルミラーによって、医者はそんな事は気にせずに治療に集中できるようになった。

第2に熱が出ない。治療中に歯茎から出血することがあるが、熱は治療の大敵だ。LED照明にしても、ある程度の熱が出る。このデンタルミラーは光のみを反射して、熱は送らない。

第3に自然光を再現する。これにより動脈と静脈を見分けたり、人工の歯を入れるときに、他の歯と白さを合わせることができる。

こんなすごい機能があれば、歯医者さんが一斉にデンタルミラーを採用したのも当然だろう。また歯科医だけでなく、一般の外科手術にもこの技術が使われている。手術のレベルアップに多大な貢献をしているものと思われる。

このデンタルミラーを開発したのが、千葉県柏市に本社を置く従業員約300名の中企業岡本硝子で、この分野では世界シェア7割強を持つ。その他にもパソコン画面を投影するプロジェクター用の反射鏡など、光学分野では幅広い製品ラインを展開している。

職人と技術開発と

岡本硝子は、昭和3(1928)年、現社長・岡本毅の実父によって設立された。創業の翌年には、海軍から船舶用照明灯と信号ガラスの工場に指定された。戦後、海軍がなくなったが、造船所で使う色ガラスでトップシェアをとったり、高速道路の水銀灯を一手に引き受けたこともあった。

一大転機となったのは、商品ディスプレー用の照明機器メーカーから、デパートなどの高級ファッション用品の展示用に、自然で鮮やかな色が出せないか、という依頼を受けた事だった。精度の高い硬質ガラスで湾曲した反射鏡をつくる技術が高く評価されての依頼だったが、簡単には進まなかった。

ガラス自体の精密な成形は熟練工が腕をふるう。この道一筋の熟練工になると、手で触れただけでガラスの微妙な具合が分かり、「今日のガラスは機嫌が悪い」などと言う。

湾曲したガラスの表面に特殊な膜をつければ、いろいろな光を出せることは分かっていたが、膜のバラツキが大きすぎて、使い物にならなかった。「問題は膜にある」として、従来外部に頼っていた表面処理膜の技術開発を自社で行うこととした。苦労の末に、お椀状に湾曲した反射鏡の内側に均一に膜をつける技術を開発したのである。

岡本硝子の成功要因は、ひとえに照明にこだわり続けた点にあるだろう。そして顧客の求める照明を追求する事によって、ガラス成形の職人を育て、表面処理膜の技術を開発していった。同社の一途さこそ、世界トップシェアをもたらした原動力である。

print
いま読まれてます

  • 世界シェア・トップを誇る日本の中小企業にあった「3つの共通点」
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け