超小型ベアリングでの世界一
もう一つ、昔の歯医者で思い出すのは、キーンと恐ろしい音をたてて歯を削る医療機器である。その音と共に、刃先が口の中で激しく回転して歯をゴリゴリ削るので、これで「歯医者は苦手」という人も少なくなかった。
それが最近の切削器具は、音も静かになり、歯に激しい振動を与えることもほとんどなくなった。昔は1分間に数万回転だったが、今は28万回転にあがり、それだけ歯を滑らかに切削できるようになった。この進歩を実現したのがベアリング(軸受け)の改良だ。
高速で回転する刃とそれを支えるホルダーの間に、小さな鋼球が円周状に並んで入れられており、それが刃の回転を支えつつ、回転時の摩擦を小さくする。これがベアリング(軸受け)である。鋼球が真円に近く、その大きさが揃っているほど、摩擦が少なくなって高速回転が可能となり、振動や音も減少する。
外径が6ミリ以下の超小型ベアリングのトップメーカーがNSKマイクロプレシジョンだ。最近では外径2ミリ、内径0.6ミリの世界一小さなベアリングの量産技術を確立した。その部品はナノ(100万分の1ミリ)単位の加工精度で製造される。
この超精密加工を可能にしているのが、自社で開発した加工機械で、その設計、製作、さらには運転にも、この道数十年のベテランが携わっている。完全自動に近い設備だが、海外に持っていっても、国内のような超高精度の製品はできない。
一筋の道
同社の前身は昭和24(1949)年に設立された「石井鋼球」で、ボールペンの先端部に入れる鋼球の生産を始めた。昭和26(1951)年にはミニチュア・ベアリング(超小型玉軸受け)の需要が将来伸びる時代が来ることを見越して、研究開発、生産販売を開始した。
自動車、ハードディスク、ディスクプレーヤーなど、回転部を持つ製品は多く、それらにはすべてベアリングが使われる。大手ベアリング会社が大型から小型まで幅広い製品開発をするのに対し、同社は小型に特化することで、研究開発費を押さえつつ、世界最先端の技術を深掘りしてきた。
昭和36(1961)年、日本精工と資本、技術販売の提携を結び、その資本系列には入ったが、現在も創業者の子息が社長を勤め、独自の経営を維持して、子会社というより、パートナーの関係になっている。
高い技術を必要としない製品は海外生産に移したが、極小ベアリングの生産は国内に限定して、社員500人規模の中企業となっている。同社の成功要因も、鋼球の生産から始め、それを応用して市場の求める極小ベアリング一筋に職人を育て、技術を深掘りしてきたことだろう。