新型兵器も運用不可能?徴兵制が機能してないロシア軍の現実

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アメリカと並ぶ軍事大国というイメージがあるロシアですが、原油価格低下による国家財政の悪化も影響し、軍のほうはかなりの危機的状況に陥っていると指摘するのは、静岡県立大学グローバル地域センター特任助教の西恭之さん。いま、ロシア軍で何が起こっているのかを、メルマガ『NEWSを疑え!』で詳しく解説しています。

危機に瀕する?ロシアの徴兵制

ロシアのプーチン大統領は7月17日、新しいタイプの予備役制度をロシア軍に設ける大統領令を発布した。ロシア軍はこれまで、平時に1年間徴兵して訓練した者を予備役として登録し、有事に大軍の動員を可能とする体制によって、大規模戦争に備えてきた。つまり、ロシアの徴兵制の目的の一つは予備役兵力を供給することにあったのだが、予備役制度の改革は、徴兵制がこの目的を十分果たしていない一方で、全面的に志願兵制に移行するには人件費も志願者も足りないという矛盾を克服するため、考え出された苦肉の策でもある。

ロシア軍の現役兵力は77万人だが、予備役に登録された者は50歳になるまで招集に応じる義務があり、その数はほぼ2000万人に上る。『ミリタリー・バランス』は、過去5年以内に徴集兵または職業軍人として現役を終えた200万人を戦力としての予備役とみなしている。

ほとんどの西側諸国の予備役軍人は、毎月の手当と、訓練と実任務のための招集日数に応じた手当を支給されるが、ロシアの予備役軍人で手当が支給される者は少ないので、訓練招集に応じる者も少ない。また、ロシア軍が連絡先を把握しておらず、招集することができない予備役軍人も多い。

今回の大統領令で設けられた制度は、西側諸国のような手当を予備役軍人に支給し、訓練招集に応じさせることで、練度を維持しようとするものだが、まず5000人という小規模で開始されることになった。

現在の予備役兵力の主な供給源である徴兵制は、機能しているとはいいがたい。ロシア人男性は18歳から27歳の間に1年間、兵役に服する義務があるので、本来は毎年30万人が入隊するはずである。しかしながら、大学で軍事教練を受けて入隊を免除される者、徴兵忌避者、けがまたは病気で除隊する者が多いので、1年間兵役に服する者は3分の1の約10万人にすぎない。

ロシア地上軍の場合、徴兵期間1年の兵士が個人訓練と部隊訓練を終えると、部隊として行動可能な期間は3カ月ほどしか残らない(徴兵は毎年2回行われるので、地上軍全体としては毎年6カ月間が作戦行動可能な期間となる)。プーチン政権は新型兵器を調達しているが、新兵がそれを1年以内に操作・整備できるように訓練するのは至難の業である。

徴兵制を停止して全面的に志願兵制に移行し、予備役兵力の練度も高めれば、ロシア地上軍も年間を通じて新型兵器を運用できるようになるはずだ。しかし、ロシア軍の現役兵力は昨年と比べて7万人以上減っている。そのうえ、新たな予備役制度もわずか5000人で開始される。この現実は、原油価格の低下で財源難にあえぐロシアが、徴兵制を停止するため必要な人件費と志願者を確保することが難しいことを物語っている。(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之)

image by: Shutterstock

 

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『NEWSを疑え!』第423号より一部抜粋

著者/小川和久(軍事アナリスト)
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。
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