阿部は神妙そうな顔で、呼び鈴の前に立っていた。玄関から顔を出したのは、クライアントの息子である◯◯太くんであった。
続けて、クライアントが顔を出し、中に招き入れてくれた。リビングにある座布団に座り、出された缶コーヒーを勧められるままに一口飲んでから、阿部は頭を下げた。
阿部が頭を下げるのを見たのは、下山は2度目のことだった。
阿部は滅多に頭を下げないし、謝りもしない。上司としては、面倒は見てくれるが、おっかない存在である。
その阿部が報告に訪ねたクライアントの家で、クライアント相手に深々と頭を下げ、謝罪をした。
阿部「◯◯太くん、同僚と言ったのは嘘です。嘘ついて、申し訳ない。辛い思いをさせて、本当にゴメン」
クライアントは困った表情で、頭を上げてくれと阿部に頼んでいた。◯◯太くんも、同じような動きで、阿部の肩を持ち上げようとしていた。
下山は阿部が報告している間、◯◯太くんとキャッチボールをしていた。もうサッカーはこりごりだと◯◯太くんは言っていた。
◯◯太くん「すごいね、あの人」
下山「代表のこと?」
◯◯太くん「うん、社長さんなんでしょ、エライのに、僕なんか子どもに謝るとかさ」
下山「あの人は、よくわかないんだよ。変なところあってね。◯◯太くんは、寂しくないの?」
◯◯太くん「お父さんさ、料理とか上手くないし、全然ダメだからさ、僕がいないと、たぶん、病気になっちゃうと思うんだ」
下山「へ〜、頼りにされてんだ」
◯◯太くん「だって、今日だってトースト焼いたの僕だし、戸締りだって・・・」
帰りに手土産をもらい、またキャッチボールの相手をすると約束した。
阿部「まあ、こんなもんだ」
下山「何がですか!」
阿部「ある意味、トラウマになるからな。俺がやったのは、ダメな方法だ」
下山「でも、◯◯太くんは褒めてましたよ」
阿部「そうか、それなら肩の荷が下りたな」
下山「それにしても、DVも本物と偽物があるとは、怖いですね」
阿部「そうだな。人間不信になっちゃうな」
下山「・・・その言葉、心こもってないですね」
阿部「偽物もそれを見抜けない奴も、両方よくない。本当の被害が、そのうち偽物なんじゃないかと疑われる」
阿部は”青臭いが”と付け加え、下山にこう言った。
阿部「真実を追求する者として、どんなに過酷なことでも報告する責務が探偵にはある。それによって、十字架を背負う覚悟は、常にもってなければならない」
下山「いいっすね。それ、次の合コンで使うんで、メモらせてください」
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※当事者の許可を得てメルマガで紹介したものを引用しています。
著者:阿部 泰尚(T.I.U.総合探偵社代表)
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