秋のブロードウェイ新作まで変えた。ケン・ワタナベ「王様と私」効果

 

もしかして、コレ、謙さん効果!?

いったい何が起こっているのか?

報道の中には、映画やテレビなどに比べると、演劇やミュージカルの世界は、長年に渡って、取り扱う物語の内容や配役の「多様性が乏しい」という批判があったが、ついに変化が起こってきた…などと報じる記事もある。

その背景には、白人以外のより幅広い客層を取り込もうという業界の狙いもあるとかなんとか書いてあったりするが、それだけの話じゃないだろう。

なぜなら、上述のとおり、ブロードウェイ・ミュージカルは、ここ何年にも渡って、毎年、チケット売上や集客数の史上最高記録を更新し続けている状況で、別に新たな取り組みで幅広い客層を取り込まなくてはならない必要性は、そこまで高くないからだ。

おまけに、映画やテレビとは違って、劇場数に限りがあるため、これ以上、集客数を増やすのはそもそも無理がある。

さらに言えば、ミュージカルは、今やある種の伝統芸能的な位置づけのエンターテインメントになっており、ミュージカルとはこういうものというお約束ができているため、極端にこれまでと違う新たな取り組みをやってみても、お客に好まれず、あまり良い結果につながりにくかったりもする。

だから、実際に、昨シーズンに公演がはじまった新作の中で、非白人が主役のものは、35本中、たったの2本しか存在しなかったわけで、しかも、その2本とも、経済的に成功しなかったりするワケだ。そんな環境で、ついにミュージカルも、映画やテレビなどのように多様性を取り入れはじめたと考えるのには、やや無理があるだろう。

また、この秋からはじまる新作に、突然、白人ではない、あるいは、普通のアメリカ人ではない人々が主人公や中心人物となるミュージカルが、いくつも登場することになった…とは言え、別に、それぞれのミュージカルの制作団体が、事前に打ち合わせしたり、すり合わせをして、こうなったわけじゃないのだ。

これは昔から指摘されているブロードウェイ・ミュージカル業界の課題点の1つでもある。

ブロードウェイ・ミュージカル業界では、新たにはじまるショーが、どのようなものになるのかは、それぞれまったく異なる制作プロセスやスケジュールを経て仕上がってくるため、結果的に、演目が似ていたり、かぶってしまうことがあっても、それを事前に調整したり、コントロールできない

あるショーは、何年も前から粛々と準備を続けてきたものかもしれないし、別のショーは、急に話がとんとん拍子で進んではじまることになるかもしれない。

常に、ブロードウェイ全体としての作品のバランスには問題がつきまとう。そういう業界なのだ。

だから、みんなで一斉に「多様性が乏しい」という批判を解消するために、非白人、非アメリカ人が主役の物語をやってみよう…なんてことには、まずならないし、なれない。事実上、そういう調整は不可能なのだ。

そうやっていろいろと考えていくと、やっぱり、この異変は、今年2015年4月から上演された渡辺謙さん主演の「王様と私」の影響によるものなんじゃないかなと思えてくる。

以前、詳しく書いたけど、渡辺謙さん主演の「王様と私」は、権威あるトニー賞で9部門にノミネートされ、4部門で最優秀賞を受賞し、特に地元ニューヨークのミュージカル・ファンの間では、大きな話題を呼んだ。

〔ご参考〕
謙さんカッコいい!!! NYの住宅街の本屋さんのイベントで渡辺謙さんにお会いしました!!!

 「王様と私」は、名作のリバイバルだったが、多くの専門家が予想していた以上に成功したと受け止められたのだろう。

白人のアメリカ人以外が主人公を演じる物語でも、面白いミュージカルは作れるし、実際、ヒットするし、なんだかその方がこれまでにないものができそうという感覚が、意識的にも、無意識的にもブロードウェイ・ミュージカルの制作者の方々や、そして何より、その背後にいて最後にゴーサインを出す投資家の方々の間に広まった結果、こんな異変が起こることになったのではないだろうか。

つまり、この異変も、謙さん効果なのかもしれない。

そうでもなければ、白人主演、白人中心の物語、観衆の大半も白人で、それでずっと大成功を継続中っていう業界で、わざわざリスクとって、これまでと違う試みをやろうとする人々が、こんなに一気にどっと現れたりしないと思う。

とにかく、いずれにしても、ブロードウェイのこの秋からの新作シーズンでは、「多様性」(Diversity)が1つのキーワードになることは間違いなさそうだ。

This Broadway Season, Diversity Is Front and Center

image by: Denis Makarenko / Shutterstock.com

 

メルマガ「ニューヨークの遊び方」』 より一部抜粋

著者/りばてぃ
ニューヨークの大学卒業後、現地で就職、独立。マーケティング会社ファウンダー。ニューヨーク在住。読んでハッピーになれるポジティブな情報や、その他ブログで書けないとっておきの情報満載のメルマガは読み応え抜群。
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