日本の「名目GDPが過去最大」のウソを暴く、統計粉飾のカラクリ

 

このように考えると、とてもアベノミクスで名目GDPが過去最大になったとは言えないわけだが、安倍首相は衆院選の遊説で「GDPは過去最高」「GDPを50兆円も増やした」と繰り返した。

GDPのいわば粉飾で成長戦略が奏功しているように見せかけている以上、当初予算の税収を過大に計上しなければならなくなるのは理の当然であろう。

このため2016年度の予算では、大幅な税収不足が発生するというお粗末な事態となった。昨年12月2日の毎日新聞。

政府は1日、2016年度の国の税収見通しを15年度実績(56.3兆円)を下回る55兆円台後半に下方修正する方針を固めた。円高などで法人税収が減ることが主因で、当初見積もり(57.6兆円)からの減額幅は1兆円台後半に上る。政府は月内に16年度第3次補正予算案を編成し、税収の不足分を赤字国債の追加発行で賄う方針だ。

円高という要素もあったかもしれないが、そもそも当初予算への税収計上が大甘だった。そのため税収が1兆7440億円不足し、補正予算で1兆7512億円の赤字国債を追加発行するはめになったのだ。当初予算の見栄えをよくし補正予算でハッタリ分の穴埋めをする図式だ。

さらに、今年7月に発表された2016年度の国の決算によって、最終的に税収は当初見込みより2.1兆円も下振れしたことが判明した。

GDPを粉飾し、巨額の年金積立金と日銀マネーの投入で株式相場をつりあげ正社員の有効求人倍率が1倍以上と言い募って、いかにもアベノミクスが成功しているかのごとく安倍政権は見せかけているが、いずれ大きな副作用となって跳ね返るだろう。

出口戦略のない無謀な財政・金融政策と、若者の働き手が減っている社会事情によって、アベノミクスの幻影がつくられている事実を、冷静に見ておく必要がある。

実際、国内の実質消費は低迷している。2013年度292.5兆円、2014年度291.8兆円、2015年度293.3兆円、2016年度292.5兆円。これで分かるように14年度と16年度は前年度を大きく下回っているのだ。

名目賃金が多少上がっても、それ以上に物価が上がっている。ゆえに実質賃金はアベノミクスが始まって以来、下落傾向だ。求人が増え、失業が減っていると胸を張るが、その最大の理由は、少子高齢化による生産年齢人口の急激な減少にある。アベノミクスのおかげでも何でもない

安倍首相は、景気動向指数の上昇をもって、好景気だと主張する。だが、この指数はすこぶる怪しい計算に基づいている。

内閣府のホームページに計算方法を示してはいる。しかし、(1)生産 (2)在庫 (3)投資 (4)雇用 (5)消費など9つの経済部門をあげ、「その代表的な指標を用いて、前月と比べた『対称変化率』を求める」…などと言われても、一般人にはチンプンカンプンで、検証のしようがない。裏を返せば、官僚がどうにでも数値を操作できるということにならないだろうか。

一部富裕層の能天気なものの見方はいざ知らず、「いざなぎ景気」とはほど遠いアベノミクスの現実。そのなかでつくられた6年連続で過去最大となる放漫予算。財政、金融、原発、社会保障…山積みされた難題を先送りし、増え続ける莫大な借金を将来にツケ回して、為政者たちは権力維持のためにせっせと税金を使い続ける。

政府がつくる需要の恵みに群がる企業は、束になって自民党に献金し、予算を確保する。18年度予算案に胸をなでおろしている経営者たちは来年もまた、有識者会議などで、政府に都合のいい発言をするのだろう。

 

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