では、この「トイレ掃除研修」は、そのような「上司に耳の痛い意見を言えるような強い心、逃げない心」を鍛える、ホンモノの人材育成になるのかというと、違うと思います。そうではなくて、逆なのです。
常識的な感覚として「トイレ掃除」を強制するような経営陣は「部下から見て、ネガティブ情報を上げやすい」というイメージになるのかというと、正反対だからです。
この石渡氏の名誉のために言えば、この経営者は「自分はやらないくせに」部下には「汚い作業を強制」するようなタイプではないようです。ですから、道徳的に非道だという非難は当たらないかもしれません。ですが、自分から率先垂範しているということは、その分だけ部下に対する強制力は増えている、そうした反省が必要と思います。
その強制力を持ったカルチャーというのは、「ネガティブ情報を上げやすい」つまり「情報流通の風通しの良い」カルチャーにはなりません。むしろ反対のムードを蔓延させるのだと思います。これは、万が一の場合には経営の命取りになります。
会社というのは、まず経営者と従業員の利害は対立するものです。ですから、経営者は常に従業員の立場から、自分の言動を厳しく反省することが求められます。また、社会常識から考えて無理なことを従業員に強いてはなりません。そうした原理原則に忠実な会社が最終的には生き残るのです。