東京は2020年オリンピックへの盛り上がりをみせつつありますが、高温が予測される真夏の開催という日程はオリンピック費用負担者の都合に合わせているようです。危険なレベルの酷暑のなか開催という日程に意義を唱え続けているジャーナリストの嶌信彦さんは、自身の無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』の中で、「アスリートや観客らにとって快適な季節を選ぶことを最重要課題に据え直さなければ、日本は酷暑被害で世界中の笑い物になる」と指摘しています。
五輪の日程変更を!
全国で猛暑が止まらない。7月23日は埼玉県熊谷市で観測史上最高の41.1度を記録。23日までに熱中症で亡くなった人は少なくても30都道府県で94人(毎日新聞)、救急搬送者は16~22日の1週間で2万2,647人に上った。
各紙の見出しも「異次元猛暑 深刻」「気象庁 災害と認識」「大暑列島、もはや災害」「炎暑、迫る危険 室内で高齢者死亡」「水泳教室、祭り中止、命にかかわる」「この暑さ、青天井?」──と警告を発している。
今後も猛暑予想が続くなか、20年の東京オリンピックは同年7月24日から8月9日までの17日間、パラリンピックは8月25日から9月6日までの13日間にわたって行なわれることが決まっている。2回目の東京開催で期待もあるが、最近の異常な暑さからまともにスポーツの祭典を挙行できるのかという懸念の声のほうが強まっている。本当に素晴らしいオリンピックにしたいなら、開催日程を晩秋か早春に変えるべきではないか。
1964年の初の東京オリンピックは10月10日から始まった。敗戦から立ち直った日本の姿を世界が注目するオリンピックの舞台から世界に示すのだというのが当時の日本人全体の思いであり願いだった。それだけに当時のオリンピック委員会は期間、特に初日の開会式をいつにするか、について国をあげて真剣に検討した。数年間の気象状況を調べ、期間中に最も気候が安定、晴天の日が続いて選手や観客が最も過ごしやすい季節と日々を気象庁や学者などが総力をあげて調査したのである。
その結果「10月10日開会式」が決まったのだ。その努力と思いが通じたのか、10日は真っ青に晴れ渡りまさに秋晴れのオリンピック日和となった。成功の条件には会場施設や国民の受け入れ対応など様々なソフト、ハード面のもてなし方が求められるが、何といっても関係者が気にしたのは気温や湿度、晴天か雨天か──など天気の状況だった。その意味でも主催国、アスリート、観客などにとって最も快適な季節を選択することが最重要課題だったのだ。
しかし2020年の東京五輪は真夏の8月に行なうことを選択した。秋は欧州のサッカーシーズン、アメリカの大リーグ野球などの最盛期とぶつかり、欧米のプロスポーツ界が莫大なオリンピック費用を負担することを申し入れたので日本が欧米の人気スポーツシーズンを忖度し避けたとみられている。
しかし欧米のプロスポーツに遠慮して世界のアマチュアスポーツの祭典の開催日をずらし、期間中に熱中症などで選手や観客が数多く倒れたりしたら、それこそ日本のスポーツ界は世界からスポーツに対する考え方に対し、根本的批判を浴びよう。
折しも環境省は五輪期間中の「新国立競技場 熱中症『最悪25日超』」(1月4日付読売)と公表。同期間中の熱中症を示す国際指標の「暑さ指数」も最も高い危険性がある「暑さ指数31」のレベルに達した日が新国立競技場など4ヵ所で25日以上あったという。日本体育協会は指数25~28を警戒、28~31は厳重警戒、31以上を運動の原則中止と定めている。
五輪組織委員会は約100億円かけて道路の遮熱舗装や競技開始時間の調整などの対策をとるというが本当にそんなことで対応できるのか。熱中症でバタバタと選手が倒れたら日本のスポーツ界の指導者、主催者は世界の笑い物になり非難されることだろう。(電気新聞 2018年8月8日)
※ブログには、消防庁が発表した救急搬送状況のグラフを掲載しておりますのでご興味をお持ちの方は合わせて参照下さい。
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