世界中で格差が深刻化
日本でも、貧富の格差は昨今、大きな社会問題となっています。あまりマスコミなどで報じられることはありませんが、昨今、富裕層の減税をし過ぎたために、億万長者が激増しているのです。
それは、外資系証券会社などの発表データでも表れていますし、国税庁のデータでも表れています。世界的な金融グループであるクレディ・スイスが発表した「2016年グローバル・ウェルス・レポート」によると、100万ドル以上の資産をもっている日本人は282万6,000人だったそうです。前の年よりも74万人近く増加しており、増加数は世界一なのです。
その一方で、OECDの発表では、先進国34の中で、日本は7番目に貧困率が高い国となっています。
バブル崩壊以降、日本人の多くは「日本経済全体が苦しいんだ」と思い込んできました。しかし、そうではないのです。ほとんどの国民は、収入が下がり、資産を減らしている中で、富裕層だけが肥え太ってきたのです。
その大きな要因の一つが、相続税の減税だといえるのです。こういう税制が格差社会を生んだと言っても、過言ではないのです。
相続税は高いのか?
2015年の税制改正で、相続税の最高税率は55%となりました。この55%という数字だけを見ると、相続税は高いように感じるかもしれません。「資産の55%も税金で取られるのはかわいそうだ」などと思う人もいるでしょう。しかし、ここには数字のトリックがあるのです。
富裕層や税務当局は、相続税の“55%”という税率だけを持ち出し、“高すぎる”と主張してきました。しかし相続税の全貌を知れば、それが高すぎるとは絶対に思われないはずなのです。というのも、相続税には、あれやこれやの抜け穴があり、実際の税負担は非常に低いのです。
普通の人は、「相続税の税率は55%」と言われると、遺産の55%が税金で持っていかれるような印象を持つでしょう。しかし、55%というのは名目上のことであって、実際には驚くほど税金は低いのです。相続税の最高税率55%が課せられる人というのは、超大金持ちです。普通の金持ちくらいでは、相続税はせいぜい10~20%程度しかかかってこないのです。
6億円超の遺産をもらったからといって、そのまま55%の税率が課されるわけではありません。7,200万円もの控除額(割引額)がありますし、家族構成や遺産の内容によって、さらに割引があります。しかも、この6億円というのは親族全体の遺産額ではなく、遺産をもらった遺族一人あたりの遺産額のことです。遺族というのは、だいたい4~5人いるものなので、一人あたり6億円もらえるということは、遺族全体で20~30億円の遺産がある場合なのです。
また相続人の中に、配偶者がいれば、遺産の半分までは相続税は免除されますから、相続税額は半減になります。しかも、相続財産の中に、住居があれば、土地の価格を大幅に減免する制度もあります。それやこれやで、遺産が10億円くらいまでならばだいたい税率は10%以下になってしまうのです。
毎年発生する日本全国の「遺産」に対して、相続税として徴収している割合はわずか4%程度なのです。つまり、遺産全体に対する相続税の実質負担割合は、4%に過ぎないのです。
筆者としては、何億円も遺産をもらっているのであれば、最低でも3割程度の税金を払うべきだと思います。その人の資産というのは、その人だけの力で築いたものと思われがちだが、決してそうではありません。社会インフラ、教育制度、治安の良さなどなど、社会の高い文化性があるおかげで、資産を築けたわけです。
たとえば、いくら能力があったとしても、不公正で治安が悪い国に生まれれば、その能力を伸ばすことも発揮することもなかなかできないはずです。そして、世界中にそういう国は、多々あるのです。日本のような治安が良く、教育環境、経済環境が整っている国だからこそ、それだけの資産を築けたわけなのです。
だから、日本で莫大な資産を築いた人は、死んだときに最低でもその3割くらいは社会に還元すべきだと思うのです。
相続税の税率の推移
- 昭和63(1987)年改正以前
最高税率:75%(もらった遺産が5億円超の場合) - 昭和63(1987)年改正後
最高税率:70%(もらった遺産が5億円超の場合) - 平成4(1992)年度改正後
最高税率:70%(もらった遺産が10億円超の場合) - 平成6(1994)年度改正後
最高税率:70%(もらった遺産が20億円超の場合) - 平成15(2003)年度改正
最高税率:50%(もらった遺産が3億円超の場合) - 平成25(2013)年度改正
最高税率:55%(もらった遺産が6億円超の場合)
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※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2018年9月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
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