中国は、なぜトランプ相手の「貿易戦争」で絶対に勝てないのか?

 

そしてもうひとつ、中国の弱みが、来年が建国70周年にあたるということです。一党独裁の中国において、中国共産党がもっとも重視しているのがその「正統性」です。中国では、徳を失った皇帝は、天命によって徳のある者にとって代わられるという「易姓革命」を繰り返してきました。

したがって、皇帝に徳がなくなれば、正統性がなくなったとして、打倒の対象となります。そして、為政者に徳があるかどうかを左右する要因のひとつは天災です。天災が多ければ、それは皇帝が徳を失っていることとの証となるわけです。もうひとつが、民が飢えずに食えているかどうかということです。貧民層が拡大し、さらに反乱が各地で起これば、それは皇帝の徳が衰えたことを意味します。

ましてや中国共産党は、資本家によって搾取されてきた貧民層を共産主義革命によって解放することを使命としています。ところが、改革開放以降の経済成長によって中国では貧富の差が拡大してきました。とくに農村の疲弊は激しく、「三農(農村、農民、農業)問題」は、国家の存続を左右するとまで言われ、その解決が求められてきました。

しかし米中貿易戦争によって、食料品が高騰し、貧民層が満足に食べられなくなれば、それは中国共産党の正統性を著しく傷つけます。とくに来年は建国70周年ですから、否が応でも、中国共産党の「輝かしい成果」を強調しなくてはなりません。それが同時に、偉大な領袖としての習近平の権力確立につながるわけです。

これまでも何度も述べてきましたが、習近平政権が成し遂げた「成果というものはほとんどありません。台湾では独立志向の強い蔡英文政権を誕生させ、つい先日はマレーシアで反中姿勢のマハティール首相の復活を許しました。

朝鮮半島問題でもアメリカには「中国抜き」で進められ、北朝鮮に翻弄される始末です。「一帯一路」構想を方便とした中国による他国への経済支援が、実質的には借金漬けによる他国支配であることが明らかになり、世界中で中国の経済支援に対する警戒感が高まっています。

日本ではあれだけ「モリカケ問題」が騒がれても安倍政権が揺るがなかったのも、やはり中国の覇権主義に対する日本人の危機感が増大したことがあるでしょう。

まったく成果がないのに、自らの神格化と情報統制を進める習近平に対して、国内でも不満が高まっています。習近平のポスターに墨汁をかける「墨汁革命」運動が広がりを見せ、北戴河会議においても、習近平の個人崇拝に対する批判が相次いだとされています。

中国、習近平の顔写真ポスターに墨汁かける運動拡大…人民の不満爆発、独裁体制に危機

ここでさらに習近平の威信が失墜すれば、彼にとっては致命的です。せっかく毛沢東と並ぶほどの権威化・神格化を推し進めてきたのに、すべて水泡に帰してしまいます。だから表面上はアメリカに強く反発しながらも、水面下ではなんとか妥協点を探ろうと必死です。

逆にアメリカの立場からすれば、そのような弱みがあるからこそ、いま、中国に対して貿易戦争を仕掛けているわけです。中国は妥協せざるをえないということをアメリカは見抜いているのでしょう。アメリカが台湾との関係を強化させているのも、そうした文脈から見る必要があります。

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