一方で、大きな不安定要素として考えておかねばならないのは、カルロス・ゴーンという人は物凄い知的能力と精神力を持ったタフな人物だということです。ある意味で、「この程度のこと」で「くじける」とも思えないし、徹底抗戦に出た場合に、相当に手を焼くことは考えられます。
もう一つ不安なのは、今回の「虚偽記載」だけでしたら日本の国内法による実務マターですが、ルノー三社連合の混乱が長引くようですと、株主対策や訴訟リスク、金融面での影響などが国際的に出て来るという問題です。
そのような多国籍にわたる「法務、金融、税務、経営戦略」を上手くハンドリングしながら、最終的にグループの再編成を目指すのであれば、それは日本の司法当局や、フランスの経済財政当局のノウハウでは難しいと思います。多分、米英系の一流の投資銀行が出て来ないと、実務的に前へ進めない話ではないかと思うのです。
今、世界の自動車産業は大きな岐路に立っています。EV化と自動運転という2つの変革の波が襲っているからです。この点から考えると、本来であれば、このような「ドタバタ劇」などは、やっている暇はないと思うのですが、それはともかく、以上の仮説と今回の逮捕劇については、次の3通りの可能性があります。
1つは、ゴーン体制が「目先の金もうけ」に走って、「EV化と自動運転化への投資が足りない」、そこで、フランス政府にしても、日本サイドにしても危機感を持ったという可能性です。
2つ目は、とりあえず今回の問題は「EV化と自動運転化」の問題とは無関係という可能性です。
3つ目は、仮に今回の動きの背景に、国内雇用や国内資本を優先する、一種の「経済ナショナリズム的なパフォーマンス」を志向する動機が強く、グループの再編はそのために進み、「EV化と自動運転化」についてはむしろ投資ペースが後退するという可能性です。
この3つについては、今後の事件の展開によって、そのどのストーリーかが明らかになって行くと思いますが、少なくとも3つ目ではないことを祈りたい
と思います。
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