格差社会を招いた投資家優遇
この投資家優遇税制は、昔からあったわけではありません。以前、株主配当の税金は、他の所得と同様に累進課税制度になっており、多額の配当をもらっている人は、他の所得の人と同様に多額の税金を納めていました。しかし、2003年の税制改正で、「どれほど多額の配当があっても所得税15%、住民税5%の税率だけでいい」ということになったのです。
もちろん、これは高額配当所得者には大減税になりました。2003年というと、消費税導入以降のことであり、3%から5%に増税した後のことです。国民全体には増税をしておいて、株主にはこっそり大減税をしていたのです。
しかも、株主優遇制度はそれだけにとどまりません。2002年には、商法が改正され、決算が赤字でも配当ができるようになりました。それまでは各年の利益から配当が払われるのがルールだったのですが、この改正により、その年は赤字でも、過去の利益を積み立てているような会社は、配当ができるようになったのです。このため、会社は赤字でも毎年配当をすることができるようになったのです。
なぜこういう「株主優遇」ばかりをしたのか、というと、簡単に言えば株価を上げるためです。株価が上がれば、経済指標上では、景気がよくなったということになりやすいのです。つまりは、名目上の好景気を演出したかったということです。
実際に、著しい株主優遇制度をつくった2000年代前半、日本は史上最長というほどの「好景気」の状態でした。トヨタなどの大手企業は史上最高収益を連発しました。そして、上場企業は、株式配当を以下のように激増させました。
上場企業の株式配当
2005年:4.6兆円
2007年:7.2兆円
2009年:5.5兆円(リーマンショックによる影響で一時的に減少)
2012年:7.0兆円
2015年:10.4兆円
2017年:12.8兆円
この十数年間は、リーマンショックで一時的に減少したものの、「うなぎ登り」といっていいような上昇をしているのです。2005年と2017年を比較すれば、なんと約3倍の増加なのです。
もちろん、配当所得を得ている人は、収入が激増しました。昨今、日本では億万長者が激増しているそうです。世界的な金融グループであるクレディ・スイスが発表した「2016年グローバル・ウェルス・レポート」によると、100万ドル以上の資産をもっている人々、つまりミリオネアと呼ばれる日本人は282万6,000人でした。前の年よりも74万人近く増加しているそうで、増加率は世界一だったのです。この激増している億万長者の大半が、株の配当を得ている人だと推測されるのです。しかも、この億万長者たちは所得税をたった15%しか払っていないのです。
が、その一方で、この間に、サラリーマンの給料は以下のようにまったく上がっていません。
サラリーマンの平均年収
2005年:437万円
2007年:437万円
2009年:406万円
2012年:408万円
2015年:420万円
2017年:432万円
(国税庁統計より)
安倍首相の財界への呼びかけなどで、この2、3年は若干、上がっているものの、まだ2005年の水準にさえ達していません。バブル期に比べれば20ポイントも下がったままなのです。それにも、かかわらず、サラリーマンは、社会保険料や消費税の増税で、負担は増すばかりでした。
こんなわかりやすい「金持ち優遇政策」はないでしょう。これでは、格差社会になって当たり前という感じです。また金持ち優遇制度は、株主だけじゃありません。開業医や地主など、金持ちの職業の大半にはなんらかの優遇制度があるのです。こうして、2000年代から現在にかけて、日本は深刻な格差社会に突入していくわけです。