ブレグジットのめちゃくちゃ状態
ブラウン元英首相はそう言うけれども、私に言わせれば、英国のブレグジット騒動も、全く同質の、旧覇権国の自傷衝動の結果である。
ブレグジット問題はすでに穏健な決着を見出すには程遠い「めちゃくちゃ状態」に陥ってしまい、どう転んでも英国自身とEUの双方に無用のダメージを与える結果にならざるをえない。
そもそも英国のEU加盟は、旧覇権国が偉そうな態度を続けるのを止め、また戦後も英米アングロサクソン同盟を「特殊関係」と称して米国の威光を背に大陸欧州とNATOに対して代理人のように振る舞うのも止め、大陸諸国と対等な一員として欧州の多国間意思決定システムの中で生きていくということの表明であった。が、さすがに通貨ポンドを放棄してユーロを受け入れるというところまでは割り切れず、その辺りの覚悟の中途半端に今日のブレグジットに繋がる未練がましさが残っていたのかもしれない。そこが蟻の一穴となって馬鹿馬鹿しい道に転がり込んだ。
ブレグジットの直接のきっかけは移民への反感で、その点ではトランプの「壁」と同じ問題である。しかし、そもそも英米帝国主義が数世紀にもわたって世界を蹂躙し、行った先々を植民地化して強奪を繰り返し、奴隷を売買してきたことがこの問題の背景であり、今頃になってその地の人々が米国や英国に移住したいと行進してきたとしてもそれを断る理由があるはずがない。移民問題とは、数世紀にわたる英米帝国主義の野蛮に対する「ブローバック」すなわち報復──「英辞郎」の面白い説明では「アメリカのCIAの用語で、外交政策が原因となって自国にもたらされる予期できない負の結末」にほかならない。
3月末までの期限に英国がEUとの合意に達して、少しでも有利な条件を確保しつつ離脱するという可能性はすでに消えた。むしろ逆で、EU側はこうなったら出来るだけ過酷な条件を押しつけて懲らしめてやろうとするに違いない。そうかといって、再投票を行って引き返すという道も、もはや閉ざされている。メイ首相自身を含めて多くの人々は「しまった!」と思っているので、再投票すればEU残留が多数を占めるに違いないが、それに対して貧困層を中心とする離脱派は激しく反発して過激化し、収拾のつかない国内分裂に突き進むだろう。
米英の行動は、ポスト覇権時代を迎えてますます重要性を増しつつある「多国間協議」の仕組みを、自分の都合だけでブチ壊そうとしている点でも共通している。老大国はこんな風にして周りも先行きも見えなくなって世界に迷惑を撒き散らすだけの存在になり果てていくのである。
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※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2019年1月7日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分税込864円)。
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