市場ももうそれを織り込み済みなのでしょうか。29日の英国議会での“合意”を受けても、早期にEUとの合意に至る見込みはないと冷ややかに捉えたようで、30日以降、英ポンド売りが加速する事態です。そして、企業の英国からの大脱出も目立つようになってきました。Dysonはシンガポールに本社を登記ごと移す決定を下しましたし、英国に置かれていた金融の決済機関も、その本部機能をEUに移しています。
そして、ドーバー海峡で国境を接することになるフランスも、カレーの港に、再度必要になる対英関税措置に対応するため、倉庫機能と駐車場の増設工事をスタートさせています。すでに英国無き欧州に向けた準備は(備えではなく)着々と進んでいます。
欧州委員会の官僚たちも、またフランスやドイツなどEUの主要国の政府も、着々とhard Brexitの影響の低減策を次々に準備していますし、よほどの起死回生の一打でもない限りは、欧州はBrexitによるハードランディングが予測されています。
では、その起死回生の一打は何か?それは、ブレア元首相などが提言している国民投票の再実施で、離脱の判断を覆すことです。メイ首相は現時点では再投票の可能性を頑なに否定していますが、今の袋小路から英国はもちろんEUも解き放つ策は、それ以外ないような気がします。そのためには、まずメイ首相率いる英国政府が、EUに対して行った離脱通告を一旦撤回し、再度国民に信を問うことが必要になります。ちなみに、再度国民投票を行っても、結果がひっくり返るかどうかは、実は定かではありませんが。
しかし、まだメイ首相の言動を見ていると、交渉をやる気満々ですので、やはり起死回生の一打を選択する可能性は、3月末の交渉期限まではほぼゼロでしょうし、仮に延長に合意できたとしても、その可能性は低いように思われます。
となると、やはりhard Brexitに備える必要がありますが、EU各国はもちろん、日本やアメリカ、カナダ、そしてCommonwealthの国々は十分に対応策を準備できているでしょうか? 非常に不安です。すでに市場はリスクを織り込み済みだとしても、貿易、関税、人の流れ、航空路線、警察協力、ビザの問題など、非常に広い経済エリアに影響が及ぶことになりますので、非常に大きな混乱を、世界経済にもたらすことは確実でしょう。
「きっと交渉は妥協点を見つけるだろう」「hard Brexitは起こらない」といった楽観論を信じてみたくなりますが、その希望が打ち砕かれる可能性はどんどん高くなっています。
日韓の緊張の高まりと戦争の可能性、北朝鮮をめぐる軍事行動など北東アジアにおける混乱要素満載な2019年ですが、意外に、日本を含む北東アジアを絶望の底に叩き落すような波が、欧州から襲来してくるかもしれません。
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