文明論を持たないと……
こうして、カンボジアで垣間見た中国「一帯一路」戦略の具体的な展開は、一言でいって大混乱である。経済特区に進出しているのは、実際の運営にはたぶんいろいろ問題を抱えているかもしれないけれども、基本的には、額に汗して働いて、いい製品を作って中国や世界に売ろうという健全な物作り資本主義であり、そこで働くカンボジア人にとっても学ぶことは少なくないはずだ。
それに対して、不動産を買い漁ってカジノやホテルを乱造し、さらに海に面した高層コンドミニアムを建造して中国の小金持ちに売りつけようというのは、その場限りの金儲けだけを狙ったまさにカジノ資本主義で、こんなことが長続きするはずがない。おまけにカジノには必ずマフィアの闇ビジネスが付いて回る。その原理は、金儲けのためなら殺人でも撃ち合いでも誘拐でも汚職でも何でもOKだという刹那主義で、中国がもし米国をしのぐナンバー・ワンの経済超大国として世界の尊敬を集めていこうとするのであれば、こんな恥ずかしいものを周辺国に輸出してはならない。
さらにこれに輪をかけて混乱的なのは、「一帯一路」に軍事的拡張の意図を絡ませるというまことに不謹慎かつ不用意なメッセージである。1月9日にはシハヌークビルの港に初めて、中国海軍の艦船3隻が入港した。かねてから中国はフン・セン政権に対し軍港の提供を求めていると言われていて、米国政府がそれに対して敏感になっていると言われている。
シハヌークビルがすでにほとんど中国人の町になって、昔から住んでいるカンボジア人が暮らしにくくなって引っ越して行くといった事態が生じていて、そこにカジノ産業を下支えする中国マフィアが進出し、海からは軍艦が押し寄せてやりたい放題を演じるというのでは、「一帯一路」の前途は危ない。中国は文明論に基づいて世界との接し方を考えるのでないと自滅するのではないか。
image by: 高野孟のTHE JOURNAL
※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2019年2月4日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分税込864円)。
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