そこで沖縄の基地問題ですが、ここで述べてきたような「情報格差」の結果、県内の議論が問題解決を遅らせているように思われてなりません。
例えば米国海兵隊の作戦概念についてですが、2002年の段階で「シー・ベーシング」(強襲揚陸艦などの海上基地からの直接行動)という考え方に変わり、必要のないところではノルマンディー型の上陸作戦はしなくなっています。海兵隊地上部隊の長距離機動も、湾岸危機で初めて使われたCRAF(民間予備航空隊)制度によるチャーター機で行われます。わざわざ強襲揚陸艦に乗って敵前上陸する場面は限られているのです。
ところが、沖縄県内で著名な大学教授などは「長崎県佐世保を拠点とする強襲揚陸艦を沖縄に回航して海兵隊地上部隊を乗船させなければ、朝鮮半島での上陸作戦は不可能。それを考えると、海兵隊地上部隊の基地と演習場は佐世保に近い長崎県内に置くのが合理的で、飛行場も海上自衛隊大村基地や佐賀空港を使うべきだ」などと、いまだに口にしているのです。
朝鮮半島有事に限れば、確かに朝鮮半島の東西海岸から上陸作戦を行う必要性があり、佐世保の4隻の揚陸艦には中規模以下の上陸作戦の司令部機能が備わっています。これは、少なくとも4カ所から上陸作戦を行うという北朝鮮に対するメッセージで、これによって北朝鮮の軍事的暴走を抑止してきた面があるのです。
朝鮮半島有事に海兵隊が動く場合、沖縄の海兵隊地上部隊はCRAFのチャーター機で韓国に直行します。そして、上陸作戦を行う場合は佐世保から釜山に直行した揚陸艦や米本国から合流してくる揚陸艦艇に乗船するのです。海兵隊地上部隊が、そのまま韓国駐留の米陸軍第2師団と合流して地上戦闘に投入される場合もあります。
しかし、沖縄の有識者の無知と誤解に基づく説明を聞くと、沖縄県民は普天間基地の代替施設は沖縄県内ではなくてもよい、と信じ込んでしまうのです。これでは、米軍基地問題の解決について地に足のついた議論はできません。
沖縄県は、辺野古埋め立ての是非を問う前に、「情報格差」に関する県民投票を実施する必要があるかもしれませんね。(小川和久)
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