日本政府は「北朝鮮は国際社会からの人権政策に関する非難に神経を尖らせている」、「日本が国連人権理事会で北朝鮮批判のトーンを抑えれば、日朝交渉再開へのメッセージになり得る」と判断したようだが、執拗に「拉致問題は解決済み」を主張している北朝鮮にとって、今回の非難決議案提出の見送りは、「日本がようやく、我が国の主張を受け入れるようになったか」、くらいの認識であろう。
北朝鮮は、ことあるごとに「日本は『対北圧力維持』と『拉致問題』を執拗にわめいていたが」、これでおとなしくなるだろう、くらいにしか受け止めていないのではないか。なぜ、11年間も国際社会と連携して北朝鮮の非人道的な人権問題の終結を強く訴えてきたのに、今年は提出を見送ったのか。
2014年5月、ウェーデンで行われた日朝実務者協議で、日本人全拉致被害者の再調査を約束する「ストックホルム合意」を結んだが、2年後に北朝鮮は拉致再調査のため設置された「特別委員会」を解体してしまい、拉致問題の解決は振出しに戻った苦い経験がある。
日本は拉致問題解決のためにも「北朝鮮に対する非難決議案提出国」を継続すべきであった。北朝鮮との交渉は一筋縄ではいかない。それは北朝鮮を建国し今日にいたっているのは、1945年9月19日にソ連の漁船を改造した「軍艦プガチョフ号」に乗って元山港に上陸した、金日成を始めとする抗日パルチザン60人の末裔たちが建国した国であることを理解すべきである。
今回の相手に対する思いやりを北朝鮮の金正恩はどう受け止めるだろうか。金正恩は「トランプは拉致のことなど理解していない。こんなトランプに頼る日本なぞほっとけ」とでも思っているかも。(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)