自営の食堂が消え、チェーン店だらけの日本が不幸でしかない理由

 

では、どうして日本の場合はチェーン化が進んだのでしょうか?

大量発注による材料費の圧縮、セントラルキッチンによる高品質で低コストの下処理、規模の経済によるマーケティングの効果、ブランドイメージを高めることでの安全性への信頼…確かにそういった要素はあると思います。

ですが、それでも、誰も幸福にならない現状というのは、そのような自然の流れでそうなったわけではないと思います。

個人経営の食堂ビジネスが淘汰され、難しくなっていった根本の原因は、そうしたビジネスの自然な流れでは「ない」のです。

そうではなくて、「お金の問題です4つの要素があると思います。

1つは、80年代にバブル経済が膨張する中で、銀行が土地を担保にカネを貸す事ばかりに集中してしまい、地道な自営業の将来性などを判定して与信を行うノウハウを捨ててしまったということがあります。

2つ目は、日本の中に「リスクの取れるマネー」が枯渇しているという問題です。個人金融資産というのは、今でも巨大な国家債務を引き受けるだけのボリュームはあるわけです。ですが、新規に個人のビジネスを始めるようなリスクのあるビジネスに貸せるような金は非常に細いのです。

3つ目は、では海外から資金を持ってくるということになると、これはノウハウがありません

4つ目は、特に地方では地場の金融機関がどんどん体力を失っているという問題があります。

そうした金融面での構造的な問題がある中で、食堂という小規模でも完結性があり、やり甲斐もあるし、地域の活性化になるビジネスに「事業資金を供給できない」のです。

これは大きな問題だと思います。日銀や財務省、経産省といった機関が、キチンとこの問題に向き合って行くべきと思います。だからと言って、素人的にハイリスクなカネを貸してすぐに潰れるような半官半民の金融機関を作ってもダメです。まして、補助金的なものをバラまいてもダメです。

そうではなくて、日本の経済社会の構造をしっかり立て直す中で、この問題に取り組んでいかねばなりません。とにかく、本部の間接部門の経費が何十%も入っている食事を画一的な店で食べる、それが一番コスパがいいという構造は誰も幸せにしないと思います。

image by: Thanakrit Sathavornmanee / Shutterstock.com

冷泉彰彦この著者の記事一覧

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 冷泉彰彦のプリンストン通信 』

【著者】 冷泉彰彦 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 第1~第4火曜日発行予定

print
いま読まれてます

  • 自営の食堂が消え、チェーン店だらけの日本が不幸でしかない理由
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け