経営方針発表会の前日に、ある社員がしたこと
別の日の研修で、松下幸之助は仕事をする上での2つの心構えを説いた。それもまた、私の社会人生活の基本的な心構えとなった。
「君らの立場は一新入社員やな。しかし、意識は社長になれ」
新入社員とかサラリーマンだと思って働いていると、意識まで雇われ人、使われ人になってしまう。だが、社長の意識になると、同じものを見ても景色が違ってくる。
松下電器製のネオンの一角が消えていたとしよう。一社員の意識だったら消えていることに気づきもしない。万一気づいても「消えてるな」としか思わない。無関心である。しかし、社長だったら絶対にこう言う。
「おい、うちのネオンが消えとるぞ。直せ」
と。つまり、当事者意識に変わるのだ。
その日以来、私の意識はずっと社長だった。
経営方針発表会の前日には、誰に言われたわけでもないのに、もし自分が社長だったらどんな方針を発表するかを考え、それを書いて当日に臨んだ。そうすると、
「なるほどな。社長はいまそんなふうに考えとるんか。そういう見方もあったか」
と自分との差に気がつく。ただ受け身で社長の話を聞き、ノートに写すだけでは得られない学びである。
あるいは、松下幸之助が現場視察に訪れた時など、大抵の人は畏れ多くて二歩も三歩も後ろに下がるが、私は逆に松下幸之助の後ろにピタッとつき、何を質問するか、どんなことを指摘するか、どこを見ているかを徹底して研究した。
胡麻を擂るわけでも何でもない。その一挙手一投足から経営者としての物の見方、考え方を盗み取ろうと必死だったのである。
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