随所に凝らされた「飽きない工夫」
「水木しげるロード」の成功要因を探ってみた。
「水木しげるロード」のスタートは1993年。「ゲゲゲの鬼太郎」をはじめとする水木漫画に登場する妖怪のキャラクターのブロンズ像23体でスタートした。
境港市は日本海のみならず、国内屈指の漁港であり、商店街が漁業の繁栄に伴って栄えていた。しかし、モータリゼーションの進行により大規模店が郊外にできたことなど、地方に共通する商業の中心が駅前・市街から郊外に移る流れから、当時は中心市街地の空洞化、シャッター通り化が止まらなくなっていた。
境港市では当初、観光による集客よりも、商店街が注目されて人の流れが戻ってくることを期待していた。水木氏の好意により、当初はブロンズ像の著作権は発生しない取り決めになっていた。
しかし、ユニークな妖怪によるまちづくりは、マスメディアで注目を集め、全国から妖怪ファンが集まるようになった。いざ妖怪像を置いてみるとなかなか迫力があり、妖怪たちの世界とリアルな街がリンクする、拡張現実のような独特な空間の魅力が、醸し出されるようになった。
その後も徐々に妖怪像を増やし、96年に82体、2010年に139体、18年には177体に達している。
JR境港駅から「水木しげる記念館」に至る南北約800メートルの道路が「水木しげるロード」として整備されており、鬼太郎、目玉おやじ、ねずみ男、ねこ娘、ぬりかべ、一反木綿、砂かけ婆などの像がいたる所に設置され、まさに妖怪のオールスターがこの地に集結しているかのようである。
「水木しげるロード」には、目玉おやじをイメージした球体の御影石が回る清めの水や一反木綿の形状をした鳥居が特徴の妖怪神社、河童や小豆洗いなどといった水にまつわる妖怪のほか鬼太郎の小便小僧なども配した河童の泉などもあり、歩いていて飽きない工夫が随所に凝らされている。
妖怪像の増加と「水木しげるロード」の整備により、観光客は急増し、街を一変させるほどの変革を起こしている。
観光客数は、93年の2万1,000人から、97年には38万人に急増。2007年には、テレビアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」第5シリーズの放映効果もあって、初めて100万人を突破して147万人に達した。
さらに、10年には水木しげる夫人の武良布枝氏の自伝を原作とする、NHK連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」放映によって、集客は頂点となる372万4,000人を数えた。
その後は漸減傾向となり、17年には204万1,000人まで減ったが、18年に先述した理由により再び増加に転じ274万4,000人まで戻している。
今後もゴールデンウィークのような活況が続けば、今年は過去最高の結果も狙えるほどの好調ぶりである。
近年は海外からのクルーズ船が境港に寄港するようになっており、香港、韓国を中心にインバウンドの観光客も増えている。