中国のSF映画『流転の地球』が本国で「大ヒット」した裏事情

 

ただ、ストーリー展開が過去の欧米の作品に似ている点があることも指摘されていますが、それでも中国的要素がふんだんに盛り込まれた本作は、世界でも総じて好意的に受け入れられています。
本作については日本でも多くの評論がなされていますが、中でもヒットの要因となったのは「中華思想」を代表する「家」の概念だという意見が多くみられます。

習近平のお得意のフレーズである「人類運命共同体」をまさに地で行く物語であり、地球を人類の大きな家とみなして、主人公の宇宙飛行士たちは海外の人材と協力しあって「家」のために死闘を尽くす。そんな中国人の愛国心をくすぐるストーリーと、宇宙を舞台に中国人のヒーローが大活躍する爽快さがヒットの秘訣だそうです。

本作を中国共産党のプロパガンダ的映画とみる声もありますが、そこは戦後の中国ではないので、あからさまに政治的要素を見せつけたりはしないようです。しかし、元日本テレビ中国総局長で現在は在北京ジャーナリストとして活躍している宮崎紀秀氏によると、なかなか深読みのしがいのある映画だったようです。以下に彼の報道を一部引用しましょう。

「『さまよえる地球』に描かれた未来世界では、主人公の中国人宇宙飛行士の片腕で、親友として登場するのが、ロシア人の宇宙飛行士である。中国と二人三脚で世界を救おうとする最大のパートナーは、アメリカでも日本でもなく、ロシアなのである。

映画は、現在の国連のような主権国の連合体が、太陽系脱出計画を主導している想定。その中で、中国人の主人公たちが活躍し、彼らの呼びかけに世界の人が協力するという展開になるが、実は、一連の奮闘劇の中で、アメリカの影が全くといっていいほど、無い。」

「さまよえる地球」大ヒットSF大作映画が描く中国流の未来とは?

ネットフリックスで『流転の地球』という邦題で配信されています。梅雨の時期、雨で外に出られない週末にでもお楽しみください。

中国も、これまでの「反日」や政治色の強い映画ではもう受けないと学んだのか、今回はSF映画で勝負に出たようですね。中国の伝統的な価値観からすれば、歴史が「大説(君子が国家や政治に対する志を書いた書物)」にあたり、フィクションは「小説(日常の出来事に関する意見、または虚構・空想の話を書いた書物)」にあたります。

「大説」は、漢の時代には孔子の説教である「勧善懲悪」や仁義道徳、その後、司馬遷の『史記』が宮廷の「正史」「正論」となりました。

民衆のものは、モンゴル人の王朝である元王朝の時代からです。元曲や演劇など、大衆文化が代表的です。そして元朝以後は、大衆小説が続々と出てきました。『三国志演義』など歴史小説や音楽が活気を得たのも「元曲」が流行してからです。民謡、音楽、舞踏などの大衆文化、今でいえばポップカルチャーが民間で流行したのは元王朝だったのです。

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