時代は変わって改革開放の初めころになると、ドラマのテレビシリーズが人気を集め始めました。それは、政府のプロパガンダ的映像からの「解放」を意味していました。改革開放時代は、誰もが中国は自由化や民主化に向かっているという、期待を込めた感覚を持っていました。
しかし、それも天安門事件によって崩壊してしまい、その後は抗日ドラマがテレビで横行するようになったわけです。とはいえ、最近では、主人公が数百人の日本軍を一瞬で倒したり、日本兵を二つに裂くといった荒唐無稽な内容のものが増えたため、「抗日神劇」と揶揄されるまでになりました。
あまりに荒唐無稽な内容であるため、習近平政権は、こうした過剰な演出でどう考えても創作である抗日ドラマを規制するようになったのです。
今回ご紹介した『流転の地球』は、西洋、ことにハリウッドの影響が強く、内容も一部パクリがあるともいわれていますが、それでも中国では空前の大ヒットとなったということは注目に値します。
そもそも伝統的中国人の心性は、実利主義的にして現実主義です。それなのにSF映画に人気が集まるのは、習近平政権以後の変化だと私は感じています。
厳しい言論・思想統制が敷かれているため、現実にありそうな物語や歴史物語に思想を込めることは非常に危険です。これまでは抗日ドラマにフィクションを散りばめて、ある意味で「抗日戦争」を茶化していたわけです。
日中戦争は中国共産党軍と日本軍が戦ったわけではありません。あくまで、日本軍と戦ったのは国民党軍であって、共産党軍はひたすら逃げ回っていたのです。にもかかわらず、現在、中国共産党は抗日戦争の主体は自分たちで、日本に勝利したのも中国共産党だと喧伝しています。
そういう意味では、荒唐無稽な抗日ドラマは、彼らの「戦功」を台無しにするだけですから、規制しているわけです。そこで造り手側は抗日戦争からSFという最初から荒唐無稽な空想世界に舞台を移したことで、それが民衆の心を掴んだという一面もあると思われます。
もちろん最初は当たり障りのない内容でしょうが、やがて政治的なメッセージも込めたSFも登場する可能性もあります。SFに仮託すれば自由や自主独立を求めるといったテーマも可能でしょう。もともと、中国の国歌からして「奴隷になりたくない人民よ、立ち上がれ」と言っているわけですから。
このように、SF映画が中国で大ヒットしたということは、今後の中国の動向を占う意味でも注目に値することだと、私は思っています。
image by: 『电影流浪地球』公式微博