目をそらすな。日本が直視すべき老朽マンションの最期を看取る覚悟

 

別のケースでは、最近の入居で、あまりマンション内に知り合いがない高齢一人暮らしの男性の孤独死があって、その後始末がたいへんだった。弁護士さんに頼んで、相続人がいないのか調べたが、すべて相続放棄となって、管理組合が裁判所に申し立てて、清算しなければならなくなった。こういった相続放棄のケースが年1~2件ぐらい出るようになった…と。

競売になると、かなりの安値ではあるけど、まだ買う不動産業者がいるから、管理組合は、費用を何とか回収できたが、競売価格は不動産広告の価格とは、2倍以上の開きがある。この競落価格が、マンションの市場価格を引き下げてしまう…と。

理事さんは、

「これ以上、売却価格が下がると、放置や相続放棄が増え、管理組合の負担が大きい。きちんと売却してもらった方がいいのだが、売却物件が多くて早く売りたい人が安値で手放すので、価格が下がる一方で、不動産業者が所有する住戸が増え、不動産業者が総会にも乗り込んでくるので、住民に不安が大きい…」

と。区分所有者である不動産会社が総会に出席するのは、当たり前なので、「乗り込んでくる」という表現は不適切ですが、住民には、そのように感じられたようです。まったく価値観が違う人が区分所有者になった…という戸惑いがあるのです。

「賃借人がつきやすいよう見栄えは気にするが、見えないところにお金を掛けたり、修繕積立金の値上げには基本反対する。でも、買って賃貸にするのはまだいい。安く買った住戸を中国人に投資物件として売るビジネスをしている不動産会社にも目をつけられて、中国人の組合員が増えている。

正直、自分たち夫婦もあと20年ぐらい。子供たちは、もう自分の家を持っていて、相続してここに住むことはない。たぶん、売却して兄弟で分けることになるのだろうが、20年後、うまく売却ができるかどうかもわからない。ましてや売却したあとの住戸に、誰が住むのかは想像できない。

この団地の組合員の構成も20年たったらずいぶん変わると思う。20年でも想像が難しいのに、30年後、40年後と言ったらもう想像できない。不動産業者や外国人の所有住戸が増えて、このコミュニティの一員だという自覚がない組合員が増えて、管理組合運営や建物の維持管理がうまくできるのか…。

そして、いよいよの時は、最後をきちんとしめてもらえるのか…。団地の最後を看取る覚悟は、誰が、いつから持てばいいのか…。将来、住む人がいなくなって、放置されて建物は朽ち、敷地内は荒れ放題で近隣に迷惑をかける…なんてことにならないか…。自分がこの世にいなくなっても、そのことは心配だ…」

と。そういう話、団地の中でしたことがありますか?と私が聞くと、

「長寿命化で頑張っているのに、そんな話できない。『建替え』だってアレルギーがあるのに、『最後』はどうする…なんて話できる訳ない…」

と。考えにくいし、考えたくない…でも気になる…でも話題にできない…。堂々巡りのこの問題、とにかく、タブー視しないで、どんな終わり方があるのか、終わりを考えることで何が見てくるのか…。考えてみたいと思います。

image by: Shutterstock.com

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【著者】 廣田信子 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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