【書評】孤独死した自分を「後始末」してくれるのは一体誰なのか

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殺人事件や死亡事故、自殺や孤独死などの現場の原状回復を手がける「特殊清掃」という業務をご存知でしょうか。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、特殊清掃の現場に密着し、そこから見えてくる日本の孤独死問題の「リアル」に迫った衝撃の一冊をレビューしています。

偏屈BOOK案内:菅野久美子『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』

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超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる
菅野久美子 著/毎日新聞出版

特殊清掃、略して「特掃」とは何か。遺体発見が遅れたせいで腐敗が進み、ダメージを受けた部屋や、殺人事件や死亡事故、自殺などが発生した凄惨な現場の原状回復を手がける業務全般である。いまや殆どの現場が孤独死だ。そこは遺族ですら立ち会えないほど苛酷だ。約半年間、そんな壮絶で凄まじい現場に入り、特殊清掃人の作業内容をレポートするのは一人の女性ライターだ。

いままで『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』を著した著者が、取材の中で感じたのは「問題は一人で亡くなることではなくそのもっと前の段階にある」ということだった。年間の孤独死3万人の個々の人生にスポットをあてるため、特掃という最後の現場に立ち会う仕事を通じて、一人ひとりの人生に触れたいと思った。

いま孤独死は日本社会にとって避けて通れない問題になっている。著者は2018年12月に「30~40代がいずれ迎える『大量孤独死』の未来」「30~40代の『孤独死』が全く不思議でない事情」という記事を「東洋経済オンライン」に寄稿した。日本を侵食しつつある孤独死の現状を、不動産業や特掃の視点から描いたもので、トータル450万PVのアクセスを記録する凄まじい反応があった。

ツイッターのつぶやきの半数以上が「これは将来の自分だ」という反応だった。「誰もがこの時代、そしてこの日本で孤立感を抱え、孤独死に怯え、その処方箋を欲しがっていた」。しかし、この方法なら孤独死は防げるという解答などない。だからこそ、著者は孤独死した人の人生を知ってほしいと思った。そのために現場に行き、遺族や大家などに取材するうちに、特掃のプロと知り合いになる。

遺族でさえ立ち入り不可能なものすごい腐臭の漂う部屋で、最後の『後始末』をする特殊清掃人の温かさを知り、それが著者にとって何ものにも代えがたい救いとなった。そして、故人の死を巡って、その最後に立ち会う特殊清掃人たちの物語も書きたいと思ったという。この本のテーマは特殊清掃のリアルに徹底的に迫ることだ。著者は優れて良心的な、3人の特殊清掃人に密着し現場を回る。

大量の蠅が飛び交い、蛆虫が這いずり回り、肉片が床にこびりついている。苦しみのあまり壁や床をかきむしり、脱糞した形跡もある。そんな惨状を前に立ち竦み気が滅入る著者だったが、真の問題はそのグロテスクな表層ではなく、現場に記された故人の生きづらさの刻印だと気付く。彼らは何らかの事情で孤立し、人生に行き詰まり、セルフネグレクトに陥っていたことが分かった。

彼らはゆるやかな自殺に向かうしかなかったのだ。彼らの名もなき死が他人事だとは決して思えないという著者は、自身の生と死、そして現代日本が抱える孤立の問題に真っ正面から向き合った。いま特掃業界は盛況で、新規参入が続々、特殊清掃と遺品整理で法外なぼったくりが横行する。いまこの瞬間も、日本の至るところで孤立死は起こっている。凄惨な現場はどんどん増えている

孤独死の処方箋になり得る様々な取組みを紹介したあとで、著者が卓袱台返しに言うのは「本当に孤独死の対策が必要な人への最良の取り組みは、結局のところ個人毎に異なるだけでなく、アプローチが難しいというのが現実的な答えだ」であった。それにしても、なんと優しい3人の特殊清掃人であろうか。彼らは、内心ではこういう仕事がない社会が望ましいと思っている。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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