6月30日に板門店で開催された米朝首脳会談で、米が北朝鮮の核を「廃棄ではなく凍結の方向で譲歩」する協議があった事を、米国新鋭メディアがスクープしました。これを受け、無料メルマガ『キムチパワー』の韓国在住歴30年の日本人著者は、米国から示された「相互連絡事務所設置や人道支援」という対価が、今後の朝鮮半島情勢の変化に繋がるのではと記しています。
核凍結路線で行くようだ
前号「朝鮮戦争、事実上の『終戦』か?米朝首脳会談で金正恩が選んだ道」で、核凍結路線もアリか、と書いたのだが、これ、やっぱりそうなるみたいな雰囲気になってきた。
韓国の毎日経済新聞などの記事にあったものだが、アメリカの『アクシオス(Axios)』にすでにデカデカと載っている内容としながら、今後は核凍結路線で進んでいくだろうということがスクープされている。
この『アクシオス』というのは、ジム・バンデハイによって2017年1月に設立された新興メディアだ。政治だけでなく、金融市場でもアクシオスのスクープによって市場が大きく変動する為、その動向に皆目を光らせている状態のようだ。今回のこの核凍結も、他にはない大スクープだ。
内容を見てみよう。トランプ本人が言ったものではなくてビーガン代表の話ということになっている。公開しないことを前提に語った内容という(でも、こんなふうに公開されてしまったけれど)。
交渉期間中、大量破壊兵器(WMD)を含むすべての核計画の凍結をなし、非核化に対する明確な概念の定義を確立し、包括的な非核化ロードマップについての合意を北朝鮮側に求める。
こんな内容らしい。さらに、これに対する対価として、米国は北朝鮮側に制裁の「解除」ではなく、連絡事務所の相互設置と人的交流,・人道的支援の拡大などを提供するという意思を明らかにするものとみえる。米国は、先のハノイ首脳会談に先立って、すでにこのような内容を具体的に提案していたという。
トランプ米大統領は今年2月のハノイ首脳会談の途中、記者らと会って、「相互連絡事務所の設置を今日発表するのか」という記者らからの質問に対して「そうなればいい。双方にとってすべて良いことだから」と答弁している。
トランプがこのような立場を今回の6月30日、板門店(パンムンジョム)で会った北の金正恩国務委員長に説明した可能性が非常に高い。 米朝首脳が53分間も対話を交わしていたわけだけれど、その内容の中心がこの核凍結路線でいこう、というものだったものと推測される。
ビーガン代表が明らかにした基本方針には、米国がこれまで北朝鮮側に要求してきた寧辺(ヨンビョン)など核施設の廃棄や核弾頭、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の一部搬出など具体的な行動ではなく、あくまでも「凍結」に重点が置かれている。
これは、積極的な行動というよりは、核関連活動とWMD生産を停止することで交渉の初期段階への敷居を下げたとも解釈される。トランプは、長期間の交渉と履行過程が累積してゆかなければならない完全非核化一括妥結(ビッグディール)よりも、来年の再選とノーベル平和賞受賞の追い風となるはずの短期的成果物が必要という見方もできよう。
今回公開されたビーガン代表のこうした説明は、最近彼が出した「柔軟なる接近」発言の延長線上にある。 「われわれは(完全な)非核化以前に制裁を解除する考えはまったくない」という立場を明確にしながらも、実務交渉過程で制裁解除以外の面で北朝鮮側とやり取りする形式の交渉は受け入れられるという意思を表明したわけだ。
これまで米国が堅持してきた非核化方法論であるビッグディールは、「包括的合意・包括的履行」を意味していたのだが、今後米国が、より柔軟な姿勢で実務交渉にアプローチしていくことはまちがいないようだ。
経済制裁はそのままで、人道支援などの面で北を助けていくということなわけだけれど、はたしてどのような形が米と北との間に現れてくるか。またまた目の離せない状況となった。