強襲揚陸艦ボクサーに接近し、その反撃によって無人機が撃墜され、米国メディアの報道によってホルムズ海峡の緊張の高まりとして伝えられると、当然、原油価格は高騰します。これまでにも西さんが書いてきたように、イラン側にはホルムズ海峡を封鎖したり、米国側に軍事攻撃を仕掛けたりするというカードは、それを1回切れば国が滅びるほどのダメージを受けるという点で、存在しないに等しいのですが、国際世論は海峡封鎖やペルシャ湾岸での戦火に動揺することは避けられません。
要するにイラン側は、いつでも国際経済に影響を与えることができるというカードを、これまでのタンカーへの攻撃や拿捕と同じように切った、とみなすことができるのです。むろん、今回の撃墜によって米国側の「新兵器」による反撃能力という重要な情報を手に入れたことにもなります。
米国側としては、接近してくるイランの無人機の脅威度を評価する過程で、5キロほどの射程を持つ中国製空対地ミサイルを搭載していないことを確認し、規則に定められた0.5海里(926メートル)まで近づいた時点で「新兵器」による撃墜に出たものと考えてよいでしょう。当然、米国側には「新兵器」の威力を確認・評価する目的もあったはずです。
このようにながめると、日本としては、今回の撃墜事件の先には次のような展開もありうると、予測しておく必要もあるのではないかと思います。 それはタンカー護衛についての有志連合の動きが加速されることです。限られた国しか艦艇を出さないかもしれませんが、財政的支援をする国を含めると大きな国際的圧力になります。 既にペルシャ湾には米国の空母打撃群が展開していますし、ホルムズ海峡の封鎖に対する掃海能力の備えもできています。そこに有志連合となれば、イラン側が受ける圧力のほどがわかろうというものです。
イランの最高指導者ハメネイ師の立場で見ると、これは事態を打開するひとつの契機になるという点がポイントです。 この大きな圧力を理由に国内の強硬論を説得し、ウラン濃縮の動きにブレーキをかけ、まずはEU諸国との対話再開を試み、同時に米国との、例えば日本のような国を間に入れた間接的対話に入るというのは、イランにとって、とても現実的で魅力的な方向ではないかと思います。 タンカーへの小規模攻撃にせよ、米国とイラン双方の無人機の撃墜にせよ、人命が失われていない点も重要なポイントとなります。特にイラン側では、愛国的な集団ヒステリーを抑えやすいからです。
ニューヨークを訪問中のイランのザリーフ外相は、トランプ大統領に近いランド・ポール上院議員と会い、対話再開を働きかけているようです。トランプ大統領も、ポール議員にイラン側との接触を許可したとのことです。 国際社会は一刻も休むことなく動き続けています。参院選の洗礼を受けた安倍政権もまた、イランとの信頼関係を活用すべく、外交の舞台に立たされることになります。(小川和久)
image by: Lance Cpl. Dalton Swanbeck