【パリ新聞社襲撃事件】テロ、「イスラム国」の情報不足も遠因に

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「イスラム国」の情報不足に悩む米軍

『NEWSを疑え!』 第361号(2015年1月8日号)

米軍が「イスラム国」との戦いにあたって、必要な情報を入手できていない可能性を示す記事が、2014年12月29日付ニューヨーク・タイムズに掲載された。米国の情報活動が目的を達していない原因としては、情報コミュニティの肥大化・官僚化と、オバマ政権のシリア・イラク政策への批判が政府内でタブーとなっている可能性が考えられる。

この記事の筆者はベテランのエリック・シュミット記者。「米国はISIS(「イスラム国」)の牙を抜くため、心理面を狙う」という見出しで掲載された。中東に派遣された特殊部隊を指揮する、中央特殊作戦軍司令官マイケル・ナガタ陸軍少将が、「イスラム国」の勢力の源泉は何かを知るため、民間を含む幅広い専門家の協力を仰いでいるとしている。

「ナガタ少将は専門家との電話会議で、『われわれはイスラム国を理解していない。理解するまで、イスラム国を破ることはできない』『われわれはイスラム国の思想を打ち破っていないどころか、理解してもいない』と打ち明けた」

ナガタ少将は、2014年9月25日号のミリタリー・アイ「米陸軍の期待の星は特殊部隊を率いる日系人少将」で紹介したとおり、軍功を重ねており、政府・軍の高官の信任も厚い。

そのナガタ少将が、「われわれは『イスラム国』を理解していない」と述べたことは、米国の情報コミュニティ全体が直面している深刻な問題の存在を物語っている。2001年9月11日の同時多発テロ以来、米政府は「イスラム国」の源流となったスンニ過激派を研究し、理解するため、莫大な資金を使い、民間を含む幅広い専門家を動員してきたのに、成果が上がっていないことが明らかになったからだ。

ISIS(「イスラム国」)の思想は、預言者ムハンマドの時代を模範としてイスラム教を純化し、当時の政治体制を復活させるべきであるとするサラフィー主義を掲げ、手段として武力を優先するサラフィー・ジハード主義だが、世界の過激派や、北朝鮮のような国家の思想と比べて複雑だとはいえない。

この単純な思想と、それが支持される理由に関する情報を、中央特殊作戦軍司令官が入手できていない原因について、米国の情報コミュニティは同時多発テロ以来、情報を集める過程で肥大化・官僚化し、単純な情報を伝える能力を失ったのではないかという疑問が生じている。

また、イラクとシリアで「イスラム国」が支持されるもっとも単純な理由は、オバマ政権の政策とも関連しており、米国の政府・軍にとってタブーとなっている可能性がある。

2014年に「イスラム国」がイラクで急に拡大したのは、スンニ派住民が、シーア派中心のマリキ前政権に迫害され、「イスラム国」に支配されるほうが安全だと錯覚したからにほかならない。

実は、2010年のイラク国民議会総選挙では、マリキ前首相の陣営は、世俗主義的なアヤド・アラウィ氏の陣営よりも当選者数が少なかった。マリキ前首相が2010年に再任されたのは、イランが強硬に支持し、対決を嫌った米国が譲歩した結果という要素が大きい。

シリアでの「イスラム国」の台頭も同様に、米国の不介入政策の下で、アサド政権が「イスラム国」以外の反政府勢力に対する攻撃を優先した結果という側面が大きい。米政府内でオバマ政権の政策を批判することがタブーとされるだけの理由は十分にあるのだ。

 

『NEWSを疑え!』 第361号(2015年1月8日号)

著者/小川和久(軍事アナリスト)
地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。外交・安全保障・危機管理(防災、テロ対策、重要インフラ防護など)の分野で政府の政策立案に関わり、国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、日本紛争予防センター理事、総務省消防庁消防審議会委員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。
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