夢を叶えるには、まずその願いを強く思い描かなければなりませんが、それはどうすれば可能なのでしょうか。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、英語学者で保守派の論客としても知られた故・渡部昇一氏が、人生の恩師と出会った瞬間のエピソードを交えつつ、夢を抱く強い意志・信念の大切さについて論じた遺稿を紹介しています。
夢を叶える秘訣
現代の知の巨人と呼ばれた渡部昇一先生。
渡部先生が生前最後に執筆された遺言とも呼べる原稿には、ご自身の生い立ちや若き日の歩みと共に、自ら体得された勉強術、運を掴む方法、逆境に処する態度など、人生をよりよく生きるためのヒントが満載です。
その中でもとりわけ興味深い「夢を叶える秘訣」に迫ります──。
人生の恩師との出逢いも忘れられない。高校時代に英語の授業を担当していただいた佐藤順太先生である。佐藤先生は知識を愛する人という表現がぴったりな方で、私は知らず知らずのうちに知識欲を掻き立てられ、身を乗り出して佐藤先生の授業を聴いていた。
卒業の際、遊びに来いとお誘いいただき、数名の同級生とご自宅に伺ったことがある。私はそこで生まれて初めて本物の書斎を見た。天井まで書棚があり、数々の和綴じの本や『小泉八雲全集』の初版、イギリスの百科事典24巻などが収蔵されている。とても山形県の田舎の一教師の書斎とは思えなかった。佐藤先生は着物姿でゆったり書斎に腰を掛けながら、いろんな話をしてくださった。
その時、私はこういう老人になりたいと強く思った。一生の目的が定まった瞬間だったと言っても過言ではない。まさしく佐藤先生に痺れたのである。
ただ不思議なことに、他の同級生は誰一人痺れなかった。それどころか、後年同窓会で集まると、「そういえばそんな先生もいたな」と言う人が大半だった。もちろん彼らはそれぞれ他の先生の影響を受けたのだろう。だが、同じ先生に学びながら、全く影響を受けない者もいれば、私のように揺るぎない影響を受けた者もいる。受け手の求める心や感性の如何によって、そこから学び取れる質と量は天と地ほどの差になる、と言えるのではなかろうか。
私はあの日以来、今日に至るまでの約70年間、佐藤先生のお姿や書斎のイメージが頭から離れたことはなく、いまも痺れっぱなしである。70代になって新たに家を建て、そこに10万冊ほどの本を収めた書庫をつくり、夢を叶えることができた。
ゆえに、若いうちに何になりたいかという強い意志を持つこと。その願望を思い描き、頭の中で鮮明に映像化し、信念にまで高めることが重要であると思う。脊髄の奥で沸々と願望を燃やしていると、天の一角からチャンスが下りてくるものである。
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