こだわりが強い知人女性の「段ボールのカーテン」に驚嘆した件

 

またこの人はファッションやインテリアにも強いこだわりがある。例えばコートにしろバッグにしろ靴にしろ、妥協して買うことはまずない。こんな状況がよくあるのだと言う。商品Aは形はいいが色が気に入らない、商品Bはその逆。確かによく聞く「買い物あるある」である。それでもひたすら諦めずに探すと言う。そうこうしているうちにシーズンが変わって終に買わずじまいになることも多いそうである。ただ恐るべき量の関連検索履歴がパソコンやスマホには残るそうである。

この諦めない姿勢が時に奇跡の出会いをもたらすことがある。夏に暑い中を歩くのが嫌だと言って、駅のすぐそばのマンションに引っ越した時のことである。

自分の部屋にはカーテンがないと言う。「それはいくら何でも不用心だから、そこいらのホームセンターで適当に買って来ればいいじゃないか」と意見したところその心得違いを指摘された。部屋で一番の表面積を占めるインテリアがカーテンなのだから、ゆめゆめ粗略には選べないと言うのである。あまりの正論に一時的に納得しそうになったが問題はそこではない。飽くまでセキュリティー上のことである。こっちも引き下がる訳にはいかない。

ところが彼女は「大丈夫」といった感じに手の平で私の言を制してこう言った。「段ボールのカーテンがあるから」。私は思わず吹き出した。インテリアにこだわる人間が段ボール、おそらくは通販か何かの箱を展開したであろう物を窓枠にガムテープで止めているぶざまな様子が目に浮かんで如何にも滑稽だったからである。笑いの止まらない私に、彼女はいつも通りの静かな感じで自分のスマホの画面を差し出した。

驚いた。本当に段ボールのカーテンなのである。こんなものがこの世に存在したのかと本当に驚いたのである。どうやら養生用のカーテンらしい。それにしても彼女の検索能力は終に一時的に自分のプライバシーを守るための段ボールカーテンにまで辿り着いていたのである。結局、彼女の部屋に奇跡のカーテンが掛かるのはこれより6カ月後のことであった。その時の彼女の何とも言えない幸せそうな顔は今でも忘れられない。

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