まさかの政敵の影響?安倍首相が日本版FEMA創設に着手しないワケ

 

伊豆諸島や千葉県を強風が襲った台風15号、東日本の広い範囲に大雨による大きな被害をもたらした台風19号と、続けざまに大きな災害が発生し、備えや初動対応などの問題も表出しています。メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストで危機管理の専門家でもある小川和久さんは、危機管理や災害対策の統合組織「日本版FEMA」は必要なしと判断した官僚機構に対し疑念を投げかけるとともに、安倍首相がこの件には消極的な驚きの理由も指摘しています。

日本版FEMAは不要と言った人たちへ

広範囲におよんだすさまじい台風19号の爪痕を前に、あらためて危機管理に関する国家の司令塔の必要性を痛感させられました。国家の司令塔とは、米国の連邦緊急事態管理庁(FEMA)に相当する組織です。

米国のFEMAはワシントンに本部を置き、常勤職員3700人、待機要員4000人。全米10カ所の地域事務所のうち6カ所は常勤職員100~150人、待機要員363~500人で編成されています。連邦政府内で危機管理行政を一元的に調整する機関で、スリーマイル島原発事故の対応が遅れたことを受け、カーター大統領の下で1979年7月に発足しました。

FEMAに代表される米国の危機管理は、減災、準備、緊急対応、復旧という要素で成り立っています。そして、それに対応する形で、FEMAの仕事は、緊急時の関係組織の調整、そのための計画の策定のほか、日頃の研究開発と教育訓練で成り立っているのです。

準備がなければ、危機管理も災害対策もあったものではありません。準備にあたる研究開発や教育訓練を行う組織もないのに、「大丈夫」というのは嘘つきというものです。台風19号と、その前の台風15号の被害を見るまでもなく、これまでの災害対策では追いつかないことは明らかです。

台風15号では、電力、電話、水道といったライフライン、台風19号では道路や鉄道に甚大な被害が発生しました。治山治水や都市計画までが問われているのです。災害に対する復旧・復興だけでなく、そうした被害が発生しない国づくりについて、それも可及的速やかな取り組みが求められています。

安倍政権が「国土強靱化」を謳うのであれば、地球温暖化に伴う日本列島の亜熱帯化を前に、総合的な戦略を描き、実行に移す必要があります。そのためには、省庁の垣根を越えた青写真を描き、また、統合的な実行組織を備える必要があります。そうした国家の司令塔があって初めて、自衛隊、警察、消防、国土交通省といった第一線の組織は、さらに持てる能力を発揮できるようになると思います。

これまでの政府の取り組みを見ていると、地震であれば首都直下や南海トラフなどを個別に扱ってきました。しかし、今回のような台風被害のさなかに巨大地震が起きたら、目も当てられません。そのためには、東京の首都機能をはじめとする都市計画の段階から積み上げていかなければ被害局限につながらないのです。日本版FEMAの取り組みの上に、首都機能の分散などを描く必要があります。

それを、現在の政府の在り方でできるのでしょうか。「いまの行政組織で対応できるから、日本版のFEMAなど屋上屋を架すがごときで、不要だ」とうそぶいてきた官僚機構と、その口車に乗せられてきた政治は、いま一度足もとを見つめ直してもらいたいものです。

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